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第3話

魁理なんて…
23
2020/05/25 09:30
(な、なんで・・・)
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
なんで魁理カイリの方が早くついてるの?
真野 魁理(マノ カイリ)
主より早く着き、主の席を整えておくのもまた執事の仕事ですので。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
おはよう、美桜ミオウ
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
かーや!おはようだけど、魁理はいつ来たの?
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
んー10分前くらいかな。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
な、なぜ…。
私が学校に着くと、私の席に魁理カイリが居た。

(いや、私遠回りしてない…よね…うん!してない。)

頭の中で状況を整理して、ひとつの答えにたどり着いた。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
あー!魁理、近道とかいうズルしたでしょ!
真野 魁理(マノ カイリ)
はっはは!ズルってなんだよ。
お腹を抱えて笑う魁理を見て、少し前に戻った気がした。
私が口をホコロばすと、途端、魁理の目付きが変わった。
真野 魁理(マノ カイリ)
さぁ、主。
そろそろ先生が参られます。荷物を整えなければ。
そう言うと、魁理はそそくさと私の鞄から筆記用具と眼鏡を出し、鞄を机の横にかけた。そして、何処からともなくクシを取り出し、走って乱れた私の髪を綺麗に整え、いつの間にか席についていた。その速さに目が追い付かず、本当に“いつの間にか”だった。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
魁理さ、前にも増して速くなってんね。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
はぁぁぁぁぁ。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
おや?大きなため息ですねぇ。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
ねー、かーや。
いや私のせいなんだけどさ、魁理はどうしたら戻るんかな?
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
美桜は戻ってほしいの?
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
うん。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
あんな優秀な執事は、なかなか居ないよ?
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
いや、そうだけどさ…。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
否定しないんかい。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
前みたいに、普通の友達にね。
だって、なんか他人行儀だし。あんな魁理…やだよ…。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
美桜…。
と、ガラガラとドアが開き、朝のホームルームが始まった。
先生
はーい、おはよぅ。朝のホームルーム始めんぞー。席つけ。スマホしまえー。
ガヤガヤと席につく生徒の声や、椅子の音が教室に響く。
私の席から、斜めに3つ前の席が魁理の席だ。ここからよく見える。今の魁理は前と変わってない所もちゃんとある。先生の話を聞いてるようで、聞いてない。今日なんかペン回してるし。

(先生にばれるぞー。)

先生
おい。
カタンッ
先生
真野、何をしている。
真野 魁理(マノ カイリ)
あ、いや、…すみません。
(ほーら、見ろ!)

いつもはしないことしてるから。教壇から魁理の席、めっちゃ見えるんだよね。

(って、これじゃまるでいつも魁理のこと見てるみたいじゃん!)

私は、ハッとして我に帰る。
その時、ガタンッと音をたてて、席を立ち上がってしまった。
先生
おぉ…。どうした岩淵…。急に立ち上がって。なんかあったか…?
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
いや、すみません!何でもないです!
私はすぐに席についた。ため息がこぼれる。
先生
じゃあ、ホームルーム終わるぞ。号令係ー、号令かけてー。
生徒
きりーつ、きょうつけー、礼ー。
「ありがとうございました。」
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
ねぇ、美桜。どうしたの?
笑いをこらえた感じで、伽弥は後ろを向いて話しかけてくる。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
何でもない…。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
えー?うそだー。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
何でもないって。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
あ、魁理のこと?
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
ゴホッゴホッ…!
口に含んだ飲み物を思わず吐き出しそうになってしまう。…当たりすぎて。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
おー当たりだー。
岩淵 美桜(イワブチ ミオウ)
違うって。あんな魁理なんて、嫌いなんだから!
ほぼ八つ当たり状態で、教科書を持ってさっさと移動教室先へと向かった。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
私は、何も言ってないよ…。
私は墓穴を掘ったことに気づくことなく、教室を出た。
真野 魁理(マノ カイリ)
なぁ、伽弥。
谷河 伽弥(タニガワ カヤ)
ん?
その後の展開を見ることも、知ることもなかった。

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