(な、なんで・・・)
私が学校に着くと、私の席に魁理が居た。
(いや、私遠回りしてない…よね…うん!してない。)
頭の中で状況を整理して、ひとつの答えにたどり着いた。
お腹を抱えて笑う魁理を見て、少し前に戻った気がした。
私が口を綻ばすと、途端、魁理の目付きが変わった。
そう言うと、魁理はそそくさと私の鞄から筆記用具と眼鏡を出し、鞄を机の横にかけた。そして、何処からともなく櫛を取り出し、走って乱れた私の髪を綺麗に整え、いつの間にか席についていた。その速さに目が追い付かず、本当に“いつの間にか”だった。
と、ガラガラとドアが開き、朝のホームルームが始まった。
ガヤガヤと席につく生徒の声や、椅子の音が教室に響く。
私の席から、斜めに3つ前の席が魁理の席だ。ここからよく見える。今の魁理は前と変わってない所もちゃんとある。先生の話を聞いてるようで、聞いてない。今日なんかペン回してるし。
(先生にばれるぞー。)
カタンッ
(ほーら、見ろ!)
いつもはしないことしてるから。教壇から魁理の席、めっちゃ見えるんだよね。
(って、これじゃまるでいつも魁理のこと見てるみたいじゃん!)
私は、ハッとして我に帰る。
その時、ガタンッと音をたてて、席を立ち上がってしまった。
私はすぐに席についた。ため息がこぼれる。
「ありがとうございました。」
笑いをこらえた感じで、伽弥は後ろを向いて話しかけてくる。
口に含んだ飲み物を思わず吐き出しそうになってしまう。…当たりすぎて。
ほぼ八つ当たり状態で、教科書を持ってさっさと移動教室先へと向かった。
私は墓穴を掘ったことに気づくことなく、教室を出た。
その後の展開を見ることも、知ることもなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。