優太side
"楽しい時間はあっという間"。
その言葉は、何回か聞いたことはあったけど、こんなに身をもって自覚したの初めての事だった。
叔父さんからそんなメールが送られてきたのは、出発の20分前の事だった。
2時間以上無我夢中で皆と遊んでいたのに、体感時間は30分くらいだったのが、怖いとも感じた。
小さな声で言ったはずだったのに、隣にいた紫耀には丸聞こえだったみたいだ。
あぁもう、今の俺の涙腺は呪われてるみたいだ。
涙は、枯れる事を知らない。
じゃあ、勇太。
勇太も泣きたいの?
玄樹も、紫耀も、廉も、海人も、皆泣きたいの?
それを、俺が遮ってる?
だとしたら、俺が皆を助けないと。
俺は声を絞り出した。
皆、優しくて暖かな目で俺を見つめる。
言い終わってから、少しだけ後悔した。
こんなにも情けない俺が、そんなのできる訳ないのに。
俺が、涙をこらえられていないというのに。
なのに、どうしてこんなこと....
長男としての最後の試練なんて....俺は長男である資格が無いのに、どうしてあんなこと言ったんだろう....
そんな俺の後悔を全て洗うように、皆は俺のまわりに立った。
最初に口を開いたのは、玄樹だった。
そんな事、絶対無いのに。
きっと、この中で一番情けなくて、かっこ悪いのは俺だろう。
なのに、どうして玄樹はそんな事....
どうしてそんなに優しい言葉を掛けてくれるんだろう。
玄樹の方を見ようと顔を上げると、玄樹の頬には涙が伝っていた。
泣いていて息が弾んでいる玄樹の肩を、俺は抱いた。
俺ができる事は、これくらいしか無いから。
せめて、これくらい。
精一杯、やってやりたい。
その姿を見ていた他の4人は、涙を堪えながらこちらを向いていた。
特に、勇太。
紫耀はともかく、廉と海人は何も知らないのに、泣いている。
何か悲しい事が起こることを、察したのだろう。
この事が分かる人も、わからない人も。
全部抱きしめる。
後悔は、させない。
いや、皆少しはするかもしれないけど、
少しでも心が軽くなれば、良いな。
俺のハグが、誰かを救えるんだったら、
俺は何度だって抱きしめる。
だから、
いつか俺がしたハグを、
思い出してくれれば良いな。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。