京子はこのことを知っていたから、桧山の肩を持つのだろうか。
嫌でも桧山の言葉を思い出してしまう。
『僕には同じにみえるよ』
私と京子が一緒に写ってる。
陸上と園芸はまるで違う。
だけど、三枚の写真を組み合わせて一枚の写真にすれば、それはもう作品と呼べるものだった。
でも、この写真は過去の私だ。
思わず涙が溢れる。
もうあの頃には戻れない……
神山先生が何故、市民ホールにいるのかわからなかった。私は目に浮かべた涙をさりげなく拭いた。
私は大丈夫ですと先生に伝えた。
どこが大丈夫なのだろう。さっきまで、私は泣いていたのに。
でも、この写真を見ると桧山を憎めないような気がした。
私がずっと眺めていたからだろうか、先生がふいに話しかけてきた。
神山先生は口元に手を当てて、考え事をしていた。
同情されるのだろうか。
先生には困ることを伝えたかもしれない。
私の心はもう限界だった。
そう言い残して先生は立ち去り、やがて受付の人と一緒に私のもとに戻って来た。
白い手袋をはめた、受付の人は額を両手で持ち裏側を私に見えるようにした。
私は驚いた。額の裏にも写真があったからだ。
それも一枚や二枚ではなく、大量に。
その写真は私と友達が写っていた。京子だけでなく、クラスの人も、陸上部の人達も。
目で追いきれないほどだった。
恐らく全ての写真に私が写っている。
どの写真も笑っていた。
気づいたことがあった。
これらの写真は、私が膝の怪我をした後で撮られたものだった。
恐らく桧山の筆跡なんだろう。裏側にも題名があった。
『Everyone』と。
私は写真を見るまで、自分が笑っているとは思わなかった。
楽しい時間、楽しい自分を見失っていたのかもしれない。
まるで大切なものをポケットにしまい込んだまま忘れていたかのように。
それは、皆がいてくれたから。
私はそれに気づかされた桧山に感謝した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!