私と桧山は休みの日に出かけるようになった。
コスモスや銀杏やキンモクセイやお寺の紅葉など、沢山の場所に私を連れてくれた。
写真のことも、教えてくれた。
ある時、檜山との写真撮影の時に子猫が道路の溝から顔を覗かせていた。
可愛くてつい私は近寄ろうとした。桧山にはそれを制止して『待って』と私に伝えた。
私はゆっくりとしゃがみ、子猫に向かって手を差し出した。それでも、子猫は逃げていった。
私は桧山とクスリと笑った。
お寺の紅葉を見たときのことだ。
紅葉のそばに小さな池があった。
その水面に紅葉が写っていた。
私も池に写るのだろうかと近くに寄った。
私は桧山の見る世界が少し垣間見えたような気がして嬉しくなった。
自然と手を繋いで歩いた。心臓が止まる思いだった。桧山は私の手を強く握ってくれた。
未だに告白ができない。このままで良い。
でも、桧山のことをもっと好きになりたい。
私のことをもっと好きになって欲しい。
そんな思いが止めどなく溢れた。
私から桧山にキスをした。ファーストキス。
桧山は私のことを強く抱きしめてくれた。
このまま時間が止まれば良いのに。
永遠なんて言葉はないと思ってた。
でも、私はそれを信じたい。
もう告白しようと決心した。
そう思った矢先に事件が起きた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!