『ふぅん ふん』と隣から鼻音が聞こえてくる
お化け屋敷に入っていてこんなに機嫌がいい人は初めて見る
(私には一生理解できないよ)と心に苦笑をおとしながら 視線を横に滑らせ、そのまま翔琉の横顔を見つめる
らんらんと輝いている瞳に口角が上がっていて下から見上げると見える額の傷
楽しんでいる姿は小さい頃のまんまで変わらない
それでも私よりひとまわりふたまわり大きい手はあの頃とは全く違う
今見える背中も大きい
そんなことを考えて狭く暗い通路を進む
入る前にもう高を括るしかないと決めると少しは落ち着いた
私の前に翔琉を歩かせて仕掛けの場所を見つけるという まぁセコいけど… しょうがない!多少の心構えがあればないとあるとは違うのだから
プシュ ガタガタガタ
いろんな仕掛けが起きるその度に翔琉はこちらを見て『アハハっ』も笑うのだ その振動が服を握っている手に伝わってくる
『早く行ってよ』
『はいはぁい』
悲鳴のひとつやふたつも上げやしない
ここまで行くと 自分だけがビビっていると思われ面白くない…
(どうやって驚かせよう)
いろんな方法を考えたけど思いつくのはありきたりなものだけど …よしっ。
思い立ったが吉日だ。服を掴んでいる右手を離して 前を向いている翔琉の肩に掴みかかる準備をする
私が思いついたのは
よくホラー映画なんかを見てると驚かせられるヤツのあれ。なんか出てきそう!というとこで後ろから「わっ!」といわれ肩をポンとされるあれ。ほんとにタチが悪いと思うあれ考えた人はきっとろくな人じゃない。
まぁそれをするんだけど…これなら誰だって驚くでしょせめて『わっ』くらいの声でいい
さぁ!驚け!
もう10センチもないくらいまでの距離になったとき
『ねぇ─』
ひたァ 「ヒッ…あぁぁ!!」
足首になにかの圧迫感に気づき目の前にあるものに掴みかかる
硬く暖かいにかにぶつかりドンッと音がしてそっと包まれた
『え、なになに?』と驚いいている翔琉の声が頭上から聞こえてくるが それどころじゃない
「な、なんか掴まれた…足首!」
『ふぅ〜ん 本物でも出たんじゃない?』
「馬鹿なこと言わないで!」と言おうと顔をあげればその言葉は途中で萎んでしまい喉の奥に閉じ込められた
「ばっ…!!」
顔をあげれば交わる視線
すぐそこにあるアーモンド色の瞳のなかには目を丸めている自分の顔が映っている
眼前には自分を見下ろしている整っている顔面
翔琉の吐息がわずかに鼻にかかる
翔琉も初めは目を丸めたがすぐに微笑んで妖艶な笑みを浮かべた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。