本当に申し訳なさそうに言うから、
そう返してあげた。
どれだけ、思い出をしまうのに苦労したか。
やっと、忘れられると思ったのに。
あと少しで、山田くんと出会う前に戻れると
思ったのに...なんで今、このタイミングで...?
山田くんと目が合って、ドキッとする。
なんか言わなきゃ、そう思うのに。
どうも口が動かない。
山田くんが、あまりに切なく呟くから。
これで最後だと思って、承諾した。
洋楽が流れる車内。窓から見える景色が
ものすごいスピードで移り変わってゆく。
真っ直ぐ前を見て、ハンドルを握る山田くん。
その横顔を見ながら...こんなに悲しくて辛い気持ちになるなら、出会いたくなかったとさえ思ってしまう。
車が停車して、降りた時には11時過ぎで。
今日、山田くんと会ってから初めて笑った気がした。
どこまでも続く海を見てたら、山田くんに
伝えたいと思った。
親友に何度も伝えなくていいの?って言われても
頑なに伝えないと言ってたのに...。
暗くても山田くんの驚いた顔ははっきりと見えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!