前の話
一覧へ
次の話

第1話

二度目の生
63
2019/10/31 03:30
この季節にしては朗らかな陽気の中、ふわあ、と気の抜けた欠伸をしたような声が隣の席から聞こえ、私は思わず自分の左隣の席を覗き見た。
左隣の席の彼――マルビアは、この魔法学校においてはもちろん、国全体で見ても片手に入る秀才であった。
淡い色の髪に碧色の瞳。毛穴一つないのではないかと思うくらいきめ細やかな肌に中世的な顔立ちの彼は、元々の頭の良さも手伝い、ひとたび廊下を歩けば周りの女生徒からは黄色い歓声が上がる。
本人はあまり気にした風はなく、一瞥もせずに颯爽と歩いてはいるようだが。
教室の一番左の列、最後列で授業を受けるマルビアは、授業を聞いているようであまり聞いていない。
そもそも教える側よりも頭が良いのだ、授業に出る必要すらないのである。
あまり見ているとマルビアにばれてしまう、と思い前へ向き直る。
なんだか眠くなってきた。マルビアの眠気が移ったかな、なんて思いつつ、私は欠伸を噛み殺した。
実のところ、自分自身もさほど授業を真面目に受けなくても良い。
教壇に立っているファルビアーノ先生の、今この瞬間の授業を受けるのは、これで『2回目』であるからだ。
元々、『1回目』から既に秀才と呼ばれていた先天的に頭の良いマルビアとは違い、私は平凡な人間だった。
平凡に生きた私は、魔法学校卒業式の日、どこからか暴走した魔力が飛んできて、運悪く命を落としてしまった。早い人生の終わりではあったが、特段不幸だと思うこともなかった。
目が覚めて、日付を確認すると卒業式の一月前のもので。
最初は長い夢でも見ていたのではないかと思ったが、習う授業の内容も、友達の話す出来事も、掲示板で知るニュースも、すべて一度聞いたものであることは紛れもない事実であった。
2回目だからといって良い成績を上げて注目されたいなんて思いは微塵もなく、ただ平凡に生きていたいだけ。
そもそも1回授業を受けたことがあるからと言って、元々地頭が良いわけではないのだ、いつか絶対ボロが出る。
それならば大人しく慎ましやかに、平穏に暮らすのが一番と思ったからこそ、私は2回目の人生も前の通りに過ごすのだった。
ただ一つ、卒業式の日は、卒業式を欠席してでも生き永らえたいとは思っているが。

プリ小説オーディオドラマ