第35話

一歩
814
2019/02/10 10:04
「目を覚ましてっ…」


陽向…


「…さっきの…マジ?」


聞き覚えのある声が優しく降ってくる。


あたしはガバッと体を起こし、陽向の顔を覗いた。


陽向は目を開けてあたしに微笑んだ。


「ひっ…なたっ…!」


よかっ…


「泣いてんの?

大袈裟だな…」


「だって…」


陽向は手を伸ばしてあたしの涙を拭った。


「ごめん、あたしのせいで…」


あたしはまたその手に触れる。


「あなた、怪我は…?」


「ないよ…腕の骨折だけ。」


「そっか、それなら良かった…」


そう言ってまた笑う陽向。


陽向…


「あなた、好きだよ。」


っ…


「あなたは?」


こんなに失いたくないと思ったのは、陽向だけだ。


ちゃんと、言わなきゃ。


「あたしも…

陽向が好き…」


今までずっと、前に進めなかった。


怖がってばかりいた。


こんなにも幸せなことがあるなんて知らなかった。


「あなた、オレの彼女になってください。」


“カノジョ”という響きに若干違和感を覚える。


「あたし男っぽいし、ガサツだし、迷惑いっぱいかけてるし、彼女らしいこと出来るかわかんないよ?」


こんなあたしが陽向と付き合っていいのか。


「いーよ。

迷惑かけるなんて、お互い様じゃん。

オレは、あなたと付き合いたい。」


陽向の言葉一つ一つに涙が零れる。


…あたし、こんなに涙もろかったっけ…?


「オレこそ、今こんなにだせぇカッコだけど、オレでいーの?」


「ダサくなんかねぇよ!

陽向はあたしのこと守ってくれた…

カッコイーよ」


こんな男子に囲まれた生活の中で、あたしはコイツを…陽向を選んだんだ。


「良かった…

あなた」


ガラガラッ


陽向が名前を呼んだ瞬間、勢いよく病室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。


「陽向!」


「あ、かーさんだ。」


「え。」


陽向のお母さんは陽向が目を覚ましたのを見るやいなや、先生を呼びに行かなくちゃ、と出ていった。


2人で顔を見合わせて笑う。


「今いい感じだったのに〜…」


「あたし達らしーじゃんっ」


「ったく、母さんのやつ…」


はぁ、とため息をこぼす。


そして一呼吸置いてあたしを呼んだ。


「オレと付き合ってください。」


「はいっ」


幸せだ。

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