「あたしに恋なんて似合わない!」
「「…」」
あたしの勢いに2人は数秒驚き固まっていた。
「…あなた、恋愛が似合う似合わないなんて、ないと思うけど…?」
「だって…!
あたしに彼氏が出来たと仮定して、想像出来るか?
まぁ…あたしに彼氏が出来たとこも想像出来ないけど、その彼氏と手ぇ繋いだりキスしたり…
ああああ、ムリ、ムリ、ゾッとする…」
体が軽い拒否反応を起こしてる。
鳥肌がたちそう。
「それは…あなたがただ恥ずかしいだけでしょー?
出来るよ、あなたにも、彼氏。」
「それに、前よりも前進してるよ?」
みっちゃんがまた微笑んで言った。
「え?」
前進?
「覚えてる?
1年の時に私が同じような質問したの。
誰のこと話してたかは忘れちゃったけど、『好きなの?』って聞いたら『もちろん!』って、あなた答えたんだよ。」
「えっ!?
そんなこと言ったっけ?」
つか、それだったら後退してね?
「うんっ。
でもね、あなたの“好き”って、恋愛的な意味じゃなかったの。
あなたってば、『でもそれ以上にみっちゃんが好きだよー』って言ったんだよ〜!
もー、紛らわしい!」
「えっ…」
全く覚えてない…
「おぉ、じゃあ、『好き?』って聞かれて否定するってことは、ちゃんと恋愛的な意味で聞かれてるって、分かるようになったってことだね、前進前進っ」
言いながら大袈裟に頷いてみせる遥。
「そっ、れは…」
まぁ…そうなのかもしれないけど…
そこを認めるからといって、あたしは恋をする気なんてさらさらない。
「と、とにかく、あたしには好きな人なんていない!」
「まぁ、これから楽しみにしてるよ」
「…」
返事に困り、あたしは黙々とご飯を食べ続けた。
「あ…」
昼休みももうすぐ終わる、という時、教室の扉の前で、廊下の向かい側から歩いてくる陽向と目が合ってしまった。
あたしは無意識的に目を逸らした。
な、なにやってんだよ…
話したかったのに、これじゃ逆効果…。
案の定、陽向はあたしの前を横切って何も言わず教室に入っていってしまった。
あたしも立ち尽くしている訳にもいかない。
とりあえず自分の席に着いた。
ちらっと陽向を見る。
話したくて、機会を窺う。
どうやって話しかけよう?
『よっ!』?『何してんの?』?『この前はごめん』?
思い浮かぶどの言葉も不自然…
すると、視線に気づいた陽向が口を開いた。
「あのさ、さっきから凄い見られてる気がするんだけど、何?」
ぎゅぅぅぅっと胸が締め付けられる感じがした。
嬉しくて。
いつものトーンで話しかけてくれたのが、すごく嬉しくて。
「ずっと、話したかった!!!」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!