ノエ:
〔ダプシェ家…?〕
〔この城はその侯爵のものなんですか?〕
ジャン=ジャック:
〔そうだ〕
〔……ちょっとこっちに来てみろ〕
ジャン=ジャックはある扉の前で足を止める。
オレは言われた通りその扉の中へ入る。
ジャン=ジャック:
〔これがダプシェ家の最後の当主 エルマン・ダプシェだ〕
蝋燭で照らされた肖像画には、杖をついた紳士という言葉がピッタリの男性が描かれていた。
エルマン…?
さっきの自動人形…クロエさんはその名で呼んでいたな……
ジャン=ジャックは壁にかかっていたカーテンを開け、他の肖像画も見せてくれる。
ジャン=ジャック:
〔エルマンも その妻も〕
〔子供も〕
〔兄弟もみんな〕
〔みんな死んでしまって〕
〔今はもうダプシェの生き残りはクロエただ一人だ〕
ノエ:
〔ジャン=ジャック………クロエさんは〕
〔いつからここにいるんですか?〕
ジャン=ジャック
〔……〕
〔ずっとだ〕
〔ジェヴォーダンの獣事件なんてものが起こるずっとずっと前から〕
〔クロエはダプシェの民を見守り続けてきた〕
〔──お前達はなんの為にこの森にやって来た?〕
〚お前は…クロエの敵なのか?〛
ノエ:
〚………〛
〚オレの敵はネーニアです〛
〚クロエさんじゃない〛
ジャン=ジャック:
〔でもお前はあの黒い影をクロエから引き離そうとするんだろ?〕
ノエ:
〈! 当然です!〉
〈禍名をこのまま放っておけば…クロエさんの身に何が起きるかわからないんです〉
〈ヴァニ…〉
〈オレが今 一緒にいるひとの力ならクロエさんの真名を取り戻せるかもしれません〉
〈とにかく彼をここに連れて来て──…〉
ジャン=ジャック:
〔なんのために?〕
〔クロエは自分でそれを望んだと言った〕
〔…あの影が現れるまで〕
〔クロエは毎日泣いていた〕
〔僕にはどうすることも出来なかった〕
〔これがクロエの望んだことなら〕
〔クロエがもう泣かなくて済むのなら〕
〔僕はそれでいい〕
〔行き着く先が滅びだったとしても〕
〔最期までクロエのそばにいる〕
なんの躊躇いもなく発せられたその言葉にオレは動揺した。
分からない……どうしてそんな…
ノエ:
〔………ッ〕
〔ジャン=ジャック…教えて下さい〕
〔君に〕
〔クロエさんに〕
〔かつてのダプシェ家に〕
〔一体何があったのかを〕
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。