💚「……魔法を… かけてもいいですか?」
きっとこれからかけられる魔法は、さっき説明してくれた魔法のことだろう。
考えると体全体でどくどくとする。吸血には慣れるような気がしない。
でも、なんだかここで逃げてしまったらずっと吸血から逃げてしまうような気がした。
怖いから。未知だから。…昨日のことがあったから。
やらなきゃいつまでもそうやって逃げ続けてしまいそうだった。
弱い自分に少しは打ち勝たなければいけない。
「……いいよ」
💚「…本当ですか…?半分冗談で言ったつもりだったんですが…」
「ここでうらたくんが我慢したら、いつか暴走しちゃうかもだしね?」
💚「この前のまーしぃの暴走をからかわないでください。ちゃーんとあれは危険な事件だったんですからね?」
「だって… あれは志麻くんだけが悪いわけじゃないし……」
💚「それはそうですけど、そもそも理性を効かせなきゃいけない時にお嬢様に会いに行ったのが間違いで…」
「だってみんなのこと好きだもん。悪いって言われるのいや。」
うらたくんが話しているのに被せるように私の気持ちを伝えた。すると驚いたように目を丸くしたうらたくんが口を噤んだ。
💚「…妬けちゃうなー、 その好き俺だけに向けてよ。」
うらたくんの目が一瞬ギラりと光ったあと、優しく私に魔法をかけた。
キラキラとした光の粒が私に降り注ぐ。体に触れると、まるで私の中に溶け込むように見えなくなる。
💚「せめて俺に吸血されてる時は俺のことだけ考えて。」
そういうとうらたくんは私の目を覆った。
暗くて何も見えない。何かを探ろうと感覚が澄まされる。
💚「俺が数を数えるからそれに合わせて呼吸して。」
そういうとうらたくんはゆっくりと順番に数字を言っていった。
言われた通りに合わせてゆっくりと呼吸する。
少し低い声が心地よくて集中していた神経がゆっくりと解かれていった。
うらたくんが10を言い終える頃、体にぽっと火が点いたような感覚があった。
その熱は優しくじわりじわりと広がり、つま先まで体はポカポカとした。
頭もなんだかふわふわとする。考えるのが億劫で、何も思考することが出来ない。
「うらた…くん、」
💚「美味しいお嬢様のできあがりかな」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!