第57話

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2023/03/28 16:30
「…え?」


💛「ちょっと失礼しますね?」


そう言うと私の方へ早足に近づき、私の首元の匂いを嗅いだ。
スンスンという息がくすぐったくて、「ひやぁ」なんて情けない声を出してしまう。


💛「…なんか魔法かかった匂いしてる。……うらたんになにされた?」


少し怒ったように目を釣り上げて、珍しく語調が強いセンラくん。


「え、っと… たしかに少しだけ魔法かけられたけど…」


💛「なに!危ないヤツやったらすぐ解かな!どんな魔法だったか覚えてる!?」


私の両肩をがっしりと掴んで前後にグワングワンと揺らすセンラくん。
勢いが良すぎて目が回りそう……


「あ、あの!吸血をする時の魔法って…」


💛「きゅ、吸血?!」


「え?」


💛「お嬢様、うらたんに吸血されたん?!」


「そ、そうだけど…」


💛「1人だけぬけがけしやがってー!!」


そう言うとセンラくんは怒って近くにあった椅子にドカッと腰掛ける。


「な、なんかごめんね…?」


💛「お嬢様は謝んなくてええのに!別に俺怒っとらんし!」


「いや、めちゃくちゃプンプンでしょ」


💛「しとらん!!」


見るからに絶対怒ってるけど……
宥めようと私もセンラくんの向かい側の席に座る。


💛「吸血しかされとらん?」


「吸血しかされてないよ。……あ、」


💛「なに?!」


「い、いや…… なんでもない」


うらたくんが、吸血を1番(厳密には1番じゃないけど…)最初にしただけでこんなに怒ってるんだから、去り際にキスしたなんて言ったらこのお屋敷を燃やしてしまいそう…。

口が裂けても言えない……


💛「…俺、心読めるんよ」


「え?!!」


💛「うっそー!でもその反応からして絶対なんかあったやん。」


「…いじわる」


💛「え!ごめんて!拗ねないで〜お嬢様!」


私がむくれると焦ったように早口で話すセンラくん。
なんだがこの光景が酷く懐かしく思えた。

センラくんは私のことを直ぐにからかう。だから私がこうやって拗ねるとすぐに焦ってごめんと謝る。

吸血鬼とその主人としてではなく、お互い普通の人間と思っていた頃によくした会話。
ふとそれが懐かしくて弱々しくなってしまった。

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