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第1話

告白
430
2019/11/13 14:08
【手紙】
" 先生に話したい事があります。今日先生の所に行くので待ってて下さい、お願いします "
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
またか…
科学担当教師、織川涼おりかわりょう
その手に薄い桃色の封筒と可愛らしい丸文字で書かれた手紙を見つめ頬杖を付いていた。

差出人の名前はないが、文字の癖や封筒の色使いを見るに " 女子生徒 " である事が直ぐに分かった。織川は今年で5年目になる科学担当の女教師である。

彼女は180㎝と高身長でその見た目も中性的であり、声色も他の女性より低かった。過去に声優で " 男役 " をしていた名残か、普段からどこか男っぽくサバサバしていた。

肩幅も広く後ろ姿は男と間違われるほどだった。そんな織川に届くラブレターの数は山のようにある。返事をするのも出すのも億劫な織川は、最早返事などしなくなっていた。それでも彼女を好く女子生徒は後が絶えないのである。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
飽きもせず…
織川は今日も手紙を鞄に入れ、日が傾きオレンジに染まる職員室を後にした。忘れていた、と言えばいい、そう思っていると──。


──ガシッ!
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
うぉ…っと…
……ん?
服を引っ張るカーディガンの袖、細い腕を辿り服を掴む者の正体を見る。

走って来たのだろうか?息を荒らげ、少し咳き込む彼女の背中を織川は優しく摩った。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
大丈夫か?
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
ん…。うん、平気。
ありがとう、せんせ
胸を押える彼女を見ながら織川はなおも背中を摩った。大きく深呼吸をし、ゆっくり息を整えた彼女は織川を見上げる。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
どうしたんだ?
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
せんせ。あのね…
今日は告白しに来ました
その言葉に織川はどこか呆れた顔をした。鞄から手紙を出そうと手を入れていると、彼女の口が開かれる。
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
私は藍浦紗和。2年8組、出席番号1番
好きな食べ物はミルクレープ。
嫌いな食べ物は野菜とか魚は苦手。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
お、おい…
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
廊下で初めて先生を見て
好きになりました。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
……そ、そうか。だがな、藍浦。
私は君の気持ちに──
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
私は心臓の病気を持ってます
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
え……
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
20歳まで生きられない病気です。本当は早く走るのもダメだし運動もしちゃダメな体です。心臓に負担が掛かるから。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
だ、だったらお前──
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
それでもっ…私は先生を追い掛けたかった。ちゃんと気持ちを伝えたかったんです。明日には死ぬかもしれないから…。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
っ……
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
織川先生、私、先生が好きです。
先生は担当じゃ無いけど好きです。
織川は言葉に詰まってしまった。
もしここで心臓病に同情して彼女の好意を認め付き合ってしまったら、いい思いをしないのは藍浦なのではないか?

長く持たないという事実と織川を好きだというその好意が、彼女を僅かに苦しめる。
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
……せんせ、ごめんね?
困ってるよね?知ってるよ、先生と生徒は付き合っちゃいけないってコト…
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
っ、だったら何で…
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
卒業まで、生きてられるか分からないから。明日は死なない何て決まってないから。だから告白しました…。答えは分かってる、言いたかっただけ。気持ちを伝えたかっただけなんです。
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
せんせ、聴いてくれてありがとうございます。それじゃ、帰りますね。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
あ…
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
さようなら、せんせ。
背中を向け夕焼けの光が窓から差し込む廊下を歩いていく彼女の背に向かって、織川は声を掛けていた。
_織川涼@おりかわりょう_
織川涼おりかわりょう
気を付けて帰るんだぞ、藍浦
_藍浦紗和@あいうらさわ_
藍浦紗和あいうらさわ
…♪(にこっ)
振り返り手を振る彼女、織川は釣られて手を振っていた。…そしてそのまま藍浦は階段を下りて姿が見えなくなる。

彼女を見送った織川は少しばかりその場に立ち尽くしていたものの、数分後には学校を後にした。

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