目を覚ますと、私はベッドの中に一人だった。隣に居たお母さんが居なくなっている。私はベッドから降りた。
廊下を歩き、ナースステーションの傍を通る、休憩室を覗いてもお母さんの姿はない。
私は不安で堪らないまま病室に戻ろうとする。
病室の番号を見ておらずそのまま出てきてしまったせいで迷子になってしまった。
部屋を一つ一つ覗く?でもそんな事をしても終わらなさそう。
背の高い看護師さんに話し掛けられる。145㎝と背の低い私は目線を同じ高さにされ、どこか子供扱いを受けてる気分にもなる…。
そう言って私の頭を撫でてくれる看護師さん、私はその間にもキョロキョロと周りを見回した。
そう言い残して看護師さんはナースステーションへ走って戻っていく。私はお母さんに会いたくて、その場をふらりと離れた。
トイレを覗いても、屋上を覗いても、お母さんはどこにも居ない。
私は肩を落として屋上を出た。とぼとぼ歩いていると、何人かの看護師さん達が慌ただしく走り回っている。
すれ違う人達の話を聞いていると……。
名前を呼ばれて後ろから抱き締められた。その匂いも温かさも知ってる。お母さんだ。
私はお母さんに抱きついてぐすぐす、と泣いていた。そんな私をお姫様抱っこで運んでくれる優しいお母さん…。
病室に入ると先生達が安堵の溜息を零していた。私はベッドに下ろされ、履いていた靴を脱がされてベッドに寝かされる。
不安がる私を優しく撫でてくれて、私はその手を掴むとぎゅ、としがみつく。あんなに不安な思いはしたくなかった。
そんな会話をする2人を見ながら私はお母さんの手に擦り寄る。
鈴木先生の問いかけに私は頷けなかった。
鈴木先生は怖い。
目の奥が笑ってなかったりするし、低い声で強制的に同意を得るような言い方をする。
私は鈴木先生に逆らえない。私を診てくれているから。でも…と言葉に詰まる。
私はお母さんの手を握りながら涙を零しつつ頷くことしか出来なかった。
よしよしと撫でてくれる手が大好き…。でも、と私は布団に潜った。
──バチンッ!
そんな乾いた音が部屋に響いた。
話を布団の中で聞いていた私は顔を少し出す。
……この先生は、最低な人だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!