病院から歩いてほんの数分の公園に着いた。普段は賑わっているが,今日は人が少ない。
興奮したように話す詠と
少し不安そうに話す溯が近くのコートに移動した。
詠が無理をし過ぎないように休憩も挟みながら,いつものように『コントロールオリエンタード』をする。2人しかいないので,パス練のような物しかできないが,それでも充実している。
始まってから30分が経った。
2人一緒に飲んだせいか,持ってきエナジードリンクも底をついていた。
溯が行くと,詠は1人リフティングをしていた。たまにゴールに入れたりとしていると__。
そう声をかけてきたのは同じ年か一つ上くらいの男の子。いかにも外国人みたいな金髪に青い瞳。どこかのチームの名前とロゴの入ったジャージを着ていた。美形な男の子を見てきれいな顔立ちだなと感心した。
サッカーゴールを指して言うと男の子はニカッと笑ってきていたジャージの上着を脱いだ。美形だから笑顔も女の子が恋に落ちそうなくらいにきれいな笑顔。
溯が戻って来るまで2人で1on1をした。初めて溯以外の人とサッカーをした……すごく,楽しかった!
結果は,私が勝った。でも,本気を出したのは久しぶりだった。
男の子は心底驚いたように話した。
まぁいいか、と言って彼は自分のジャージの上着を持った。
苦し過ぎて声にもならない。
溯が彼女を背におぶって,走った。
カイザーもそれについて行く。
せがむように溯は涙を流した。後ろにいるカイザーも不安そうに目に涙を溜めていた。
バタン
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溯は目を見開いた。「それだ…!」と言うように。
カイザーが息を呑んだ。
自嘲気味に笑った溯は,まるで過去を思い返しているようだ。
しばらく2人は何も言わなかった。ただ黙って時が経つのを待っていた。
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カチャ
ガチャ
溯は詠に駆け寄り,抱きしめた。ギューっとギューっとギュー…
ションボリしている様から犬の耳と尻尾が見えるようだ。
恐る恐る声をかけたカイザー。
そして勢いよく頭を下げた。
こうして,騒がしかった1日は終わった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。