化学室では、すでに実験の準備が始まっていた。
白衣姿の廉を見て女子たちは、
と、黄色い声を上げている。
あなたはいつものように髪を握って、誰かに文句を言われているのではないかと
ビクビクしていた。
その隣に廉が座り、実験のやり方をまとめたプリントを差し出す。
あなたは感動した。グズな自分のために、わざわざプリントを作ってきてくれるなんて
廉くん優しい・・・・・・と
だけど安心したのも束の間、あなたはプリントに書かれた赤字に気づく。
『失敗したら許さない』
廉からのメッセージを見て一瞬で青ざめるあなた。
そんなあなたを盗み見てこっそり笑う廉。
それはちょっとイタズラのようなものだったけれど、そのせいで
あなたは ゛絶対実験に失敗できない! ゛と、ますます緊張してしまうのだった。
そして授業が始まった。今日の実験内容は蒸留だ。
バーナーに火がつけられ、フラスコに入れた液体がぐつぐつと煮えたぎっている。
あなたはフラスコに液体を注ぎ足すために、大きめのビーカーを持ち上げた。
けれど緊張し過ぎているせいで、ビーカーを持つ手がぶるぶると
不安定に震える。
あなたを止めようとした矢先、ビーカーの中の液体がこぼれて、
バーナーの炎に引火した!
ボワッと大きな炎が立ち上り、あなたにおそいかかる!
あなたをかばうために廉は大きく前に出て、液体の入っていた
ビーカーを床にたたき落とした。
━━━ガチャン!
ビーカーが割れると同時に悲鳴が上がり、教室の中は一瞬騒然となる。
だけどあなたにケガはなかった。なぜなら廉があなたを後ろから
抱きしめる形で、炎から守ってくれたから。
この時ばかりは廉も素に戻って、慌ててあなたに声をかける。
廉に後ろから抱きしめられたあなたの心臓は、これ以上ないくらい
ドキドキしていた。
「大丈夫」と答えたいのにうまく声が出なくて、こくこくと無言で
うなずくことしかできない。
でもドキドキできるのはそこまでだった。あなたを庇った廉の左手の甲が赤く腫れている。
あなたを庇ったせいで火傷したのだ!
廉はあなたの体を放すと近くの水道に向かい、
水で火傷した左手を冷やし始めた。
あなたは慌てて廉の後を追いかけて、泣きながら謝る。
対する廉は平静を装って、あなたに割れたビーカーを
片付けるように指示を出す。あなたは命令に大人しく従った。
そしてあなたや他の生徒の視線がなくなったのを確認した廉は、
と、こっそり火傷の痛さに悶絶するのだった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。