夜。廉のために変わりたい・・・・・・と願ったあなたは、
鏡の前で笑顔の練習を始めた。
━━せめて人並みになりたい。廉くんに認めてもらえるように。
だけど慣れていないためか、何度挑戦しても、ぎこちない笑顔になる。
どうやったら人前でうまく笑えるんだろう?
あなたが悩みに悩んでいると、ふとベランダのほうから視線を感じ・・・・・・。
振り向くとそこには、呆れた顔をした廉が立っていた。
恥ずかしいところを見られ、あなたはうつむく。
廉はベランダから部屋に入るなり、あなたの真正面に座った。
とはいうものの、廉に見られるかと思うと、あなたの体は
ますます緊張してしまう。
だから必死に作った笑顔も、結局ただの変顔になってしまった。
廉に呆られて、あなたは真っ赤になってうつむく。
でもそのはかなげな表情が、キュンと廉の胸をときめかす。
ああ、なんて可愛いんだろう、あなた!
気づけば廉は目の前のあなたの体を、自分のほうにグイッと引き寄せていた。
廉はあなたを熱く見つめ、あなたもまた廉を見つめ返す。
柔らかなあなたの頬をプニっと優しくつねれば、
心がとろりと甘く溶けていくような気がした。
二人の間にはラブラブな空気が流れ、廉はあなたにキスしようと少しずつ顔を近づけていく。
あと10センチ、5センチ、1センチ・・・・・・。
だけど廉の甘い妄想は、シャボン玉のようにパチンと突然弾ける。
━━━ハッ!
いままで今までのキスのくだりは、もちろん全部廉の妄想だった。
廉がキスしていたのは愛しのあなた・・・・・・ではなく、
ベッドの上に置いてあった文鳥のぬいぐるみ。
あなたは廉が突然ぬいぐるみにキスしたのを見て、きょとんとしている。
再びあなたの前で恥ずかしい行動に出てしまった廉は、慌てて
クールツンデレの仮面をかぶり直した。
そう思うものの、素直に謝ることができなくて、
廉はベランダから自分の部屋へ戻っていく。
あなたは泣きそうになるのをこらえながら、文之助に話しかけた。
文之助は『あなたちゃんは悪くないヨ!』と必死に鳥語で慰めた。
一方、自分の部屋に戻った廉も、
と、あなたを傷つけてしまったことを、心から後悔するのだった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。