第11話

第二幕 愛の喜び 第四話 隠された心
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2022/08/03 03:01
 彼女はきっと、わたしのことを知らないままでいいと思う。
 その方が、わたしも一緒にいて気が楽だから。
 うめの場合は例外で、彼女は数少ないわたしの理解者で、一番だと思う。
 唯一血の繋がりがないにも関わらず唯一わたしが心を許した存在で、だから愛おしく思える﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅のかもしれない。

 昔から、いつのまにかカメラの前に立つ存在で、意味も理由もわからずに、ただ言われたことを笑顔でほいほいとやり過ごしていた。それがわたしにとっての当たり前で、何の違和感もなく子役をしていた。
 中学生になって、音楽というものに出会ってから、歌手として活動することにした。
 物もよくわかるようになったけど、なった気になっていただけで、わたしが液晶の向こうにいる存在であることに対して疑問を抱くことはなく、だからまだまだ純粋だった。
 ステージに立てば、誰もがわたしを注目してくれて、たくさんの歓声や拍手をもらえた。そんな感覚が好きで、だから続いた。
 けれど高校生になって、何かが変わり始めた。
 うめと同じ高校に入ったものの、活動で忙しく顔を出すようなことはほとんどなかった。けれど、時間があればうめの下校に付き合っていた。好きだったから。
 うめは最後まで残って、今の担任である深山という女性教師と生徒会の仕事を行っている事が多かった気がする。二人でいる時間は少ないからこそ尊いものだった。
 ある時から、わたしは芸能界というもので活動することに恐怖を感じ始めた。
 これまで称賛の嵐が寄せられていた現代の必須ツールも、気が付けばわたしにとっては、ただ一つだけなのに恐怖でしかない、そんな『声』が届くだけの不幸のツールへと変化していた。意味がない。いいや、意味など持ってはいけない。考えてはいけない。
 ただ。
 もうこれ以上、怯えるのは嫌だった。
 だから、何もかもを辞めた。
 真実は、うめにだけなら、伝えられた。
 彼女は、わたしの想い人﹅﹅﹅であるから。

 日常というものは本当にただ過ぎ去ってゆくものだった。
 あんずちゃんは少し元気になって学校に来て、前よりも積極的に私とお話をしてくれるようになった。これまで周りの視線を気にしすぎていたような気がしたから、これでいいんじゃないかと思う。わたしといることに対しての不安はないだろう。
 うめはというと、これまで通り真面目にやっていて、帰り道ではしょうもない話をして、ただただ、これまで通りに過ぎ去っていく。これまで通りというのは、わたしにとって一番うれしいことで、変わり続けないであってほしい。
 わたしは勉強にもそれなりについてはいけているし、これまで働き詰めだったけれど解放されて、ずいぶん楽になったなぁと感じるばかり。
 これが、うめやあんずちゃんが過ごしていた日常。
 今のところは特にこれと言って『声』に関する問題は起こっていない。
 これでよかっただろう。

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