第10話

第二幕 愛の喜び 第三話 願いを叶えて
40
2022/07/31 23:55
 私は結局、何も知らないままだった。
 例えばうめの生い立ち。彼女は優れた家に生まれ、だからこそ苦労したこと。さらに、彼女の想い人のこと。
 そして──。
 桃の、私に隠していたとあること。

「あ...おはようごさいます」
 教室の戸を引いた途端に皆の視線が私に向いたものだから、何があったのかと驚いた。もちろん昨日私は病院にいたし、桃やうめが学校を飛び出してしまったものだからその行動は不自然ではない。
「あ、おはよあんずちゃん」
「桃、おはよう」
 おはようと言える相手がいるのが、尊くて仕方がない。
「日曜日さ、どうだった? あの日は直接聞けてなかったけど、楽しかった?」
 桃は少しもじもじしている。桃も、学校の友達と一緒に行くのは初めてだったのだろうか。
「すっごく楽しかった......私、友達と遊ぶなんて初めてだったから」
「それなら、大成功ね! うめとももっと仲良くなれたでしょうし......」
 桃は少し頬を赤らめて。
「うめ、なんだかんだで固定した友達しかいないというか......私と、クラスや生徒会の人数人くらいらしいから。あと、うちの担任のことも頼れるらしいけど。まあさ、きっとうめも喜んでるわ。ありがとうね」
 ぎこちない感じの桃が可愛くて、言葉が出てこなかった。けれど私の様子で言いたいことは大体わかってくれたのか、
「恥ずかし~」
 だなんて言っていた。
「ずるい、桃......顔面のパンチ力、すごい」
「顔面は一応売りにもしてたから、手入れは欠かさないの。だからそうやって褒めてくれて嬉しいわ。うめが褒めてくれることはめったにないから、残念よね」
「うめは、ずっと思ってると思う。だから言えないんだよ」
 私の言葉に、桃は過剰に反応する。
「ちょ、照れる、変な想像させないでって...んもうっ!」
「今日の桃、可愛い」
 私は笑みをこぼす。すると桃も同じように優しく微笑んで。
「笑ってくれて、ありがとね」

 放課後は私の一番嫌いな時間で、ただ一人家に残されるというなんともかわいそうな状態に置かれる。これまではそれを当たり前として受け入れていたのだけれど、今は何故か違和感を覚えてしまう。日曜日に、人の温かみに触れすぎたせいだろうか。
 とりあえず、成績をキープするために、予習復習は欠かさずにやっておく。成績上位が何の意味をもたらすのかわからないけれど、損はないだろうという考えからだ。将来に困らないのではないかという浅はかな考えがある。
 将来。それを考えると、サラサラ動かしていたシャーペンを持つ手がぴたりと止まった。
 私は未来、桃の隣にいることができるだろうか。
 桃は、私の隣にいてくれるだろうか。
 彼女は私の人生の灯し火であり、これまで暗闇と化していた私の世界を明るくしてくれる存在であると勝手に考えている。惨めだが、初めての友達。その存在は本当に大きくて。
 友情? 愛? 恋?
 私が抱く気持ちの正体はわからないけれど、暖かいものであることは確かなのだ。
 ならば。
 ずっと、一緒で、ね。

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