第28話

きゅうりともやし
387
2021/03/27 12:27
もやし side
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「昨日嫌な夢見たんすよね...」
いつも冷静で明るいたなっちから
珍しく暗いオーラを感じる。
原因が夢というのはなんとも可愛らしいが。
「どんな夢?」
普段の彼からは感じない空気に
戸惑いつつ聞いてみる。
「はじめさんを殺す夢です。」
「俺を!?」
まさかの返答に戸惑いは増すばかりだ。
「なんで俺を...?」
「分かんないっすけど、暗い場所で馬乗りになって首を締めて...」
自分の手を見つめ、夢にも関わらず怯える。
見つめるその手は震えていた。
「たなっち大丈夫か?」
そう聞いて肩に手を置くと...
──────ドンッ
突然押し倒され、たなっちは馬乗りになる。
そして震える手を俺の首にかける。
「...たなっち?」
「こうやって...俺は...はじめさんを...」
その手にかかる力はじわじわと強くなる。
息が苦しくなり、頭がフワフワする。
「...っち...」
名前を呼ぶ声も出せない。
すると突然ふっと手が解けた。
「...うっ、たなっち?」
ぼやけていた視界がクリアになると
その目に映ったのは、彼の涙だった。
「はじめさん...ごめっ...なさい...」
嗚咽をもらしながら謝る。
「俺...はじめさん...殺しちゃうかも...」
溢れ出る大粒の涙は、彼の弱い手で受け止めるには多すぎた。
俺はそっと涙を拭ってやる。
「たなっちにならさ...」
この言葉が合っているのか分からないが...
彼がそれで安心するのならという気持ちを込めて続ける。
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「殺されてもいいよ。」
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たなっちは驚いた顔をする。
「たなっちのこと、大好きだからさ。
たなっちの為なら、俺の命なんか惜しくない。」
だから、もう泣かないで?
君が俺を殺すなら
俺は君の涙を殺してしまおう。
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