第3話

たまねぎときゅうり《1話後日談》
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2021/03/09 01:15
月に1度、アラサーの男には似合わない花屋さんに行く。買うのはいつも同じ、ブーゲンビリア。
「いつもありがとうございます。」
すっかり顔馴染みになった店員さんにお礼を言う。
「こちらこそありがとうございます!!ブーゲンビリアを贈るってことは彼女さん宛ですか??」
「はい、大切な恋人に贈るんです。あの人寂しがり屋だから...ちゃんと会いに行かないと。」
「大好きなんですね。」
だって愛おしそうな顔で話されてましたよ。
と店員さんに言われる。
あまり顔に出ない方だけど...だいちくんのこと考えると自然と顔が緩むのは自分でも何となく分かった。
その後も少し談笑をし、花屋さんを後にする。
早く行かないと、寂しがるから。
「だいちくん、来たっすよ。」
気づいたらここにも迷わず辿り着けるようになっていた。ほんのり青みがかった墓石の前にしゃがみ、手を合わせる。
今日はだいちくんの月命日だ。
俺は毎月この日には必ず会いに来ることにしていた。
「もう少ししたら、皆も来るっすよ。」
ブーゲンビリアを生けながら、そう伝える。
「毎回同じ花だと、だいちくんは飽きると思ったけど...俺はこれがいいんですよ。花言葉が好きでね、教えないけど。」
だいちくんは花より団子だから、花言葉なんか興味無いはずだ。

だいちくんは無責任にも「幸せになれよ」なんて言ってたけど...
「俺はだいちくんに幸せにして貰えないと意味ないんですよ。俺を置いていくなんて...やっぱり最低な王子様ですね。」
ごめんな

そう言ってまたへらへら笑うんでしょ??
俺にはお見通しですからね。
「だいちくんがいなくなって、世界からほんの少しの青と刺激が無くなりましたよ。」
「俺がおじいちゃんになってそっちに逝く時まで精々寂しく待っててください。」
「俺のこと置いていった罰ですから。」
気づいたらまた涙が流れていた。
ったく...この人はあと何回俺を泣かせるんだろう。
その時、ふわっと身体を暖かい風が包んだ。
「たなっち、ごめんな。」
はっきりとだいちくんの声が聞こえた。
でもその声は涙声で...
「俺も泣かせてるなら、お互い様ですね。」
久しぶりの彼からの抱擁は、俺の涙を拭うには十分だった。
「だいちくんしか...見えないですから。
だいちくん以外、愛せないですから。
だから安心してください。」
きっと彼は寂しがり屋だから、こうでも言わないと泣き止んでくれないだろう。
ブーゲンビリアの花言葉は"貴方しか見えない"
これからも俺の王子様はだいちくんだけだ。

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