第2話

たまねぎときゅうり《死ネタ》
506
2021/03/09 00:43
だいちくんは覚えてるっすか??
付き合い初めて間もない頃、暇を持て余した俺らは対して興味もないメルヘンな映画観たっすよね。オチはお約束の展開で...王子様がお姫様にキスをしてお姫様が目を覚ますってやつ。内容もチープだし、最悪だったけど、終わってからだいちくんは俺に
「たなっちは俺の王子様だもんな!!」
って言ってくれたから、まぁあの映画も悪くなかったかななんて今は思ってるっすよ。
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「そんなこともあったな...」
病床で弱ってるくせに、へらへら笑いながらだいちくんは俺の話に相槌を打つ。
「今観たら印象変わるかもしれませんね、また観ましょうよ。」
デブといじられていた時からは考えられないくらい痩せた手を握りながらだいちくんにそう言う。
「たなっち...俺もう駄目だから約束出来ない...」
「だいちくん...大丈夫っすよ。俺らが、俺がいますから。」
そう言う間にもだいちくんの心拍数は少しずつ下がり続ける。無理もない、今夜がヤマだとお医者さんにも言われた。後数分...と言ったとこなのは無知な俺にも分かる。畑のメンバーも、だいちくんの友達も、家族も俺の周りで黙っている。本当は皆だいちくんと話したいはずなのに俺に譲ってくれている。
「たなっち...出会ってくれて、付き合ってくれて...ありがとう。」
「俺もだいちくんの恋人になれて幸せです」
「たなっちは...俺の王子様だ...」
「だいちくんも俺の王子様です」
「愛してる...幸せになれよ...」
「俺も愛してますから、逝かないでください。」
「ごめんな...ありがとう...じゃあな」
ピー
機械音が部屋に響く。
刹那、涙が涸れていると言われる俺の瞳から大粒の涙が溢れ出た。
「だいちくん!!」
握った手は少しずつ...本当に少しずつ温もりを失っていく。俺は何を思ったかそっと冷たくなった唇に自らの唇を重ねた。映画ではこうしたら目が覚めたから。
でも彼はもう目を覚まさない。
「だいちくんのこと大好きですけど...臭い匂い嗅がせてきたり、俺が動画で苦しんでるの見て笑ってたり本当に最低な恋人でしたよ。」
もう周りに人がいるなんて関係ない、俺は聞こえないはずの人に向かって話しかける。
「でも、あんたがいないとそれも最低だなんて思えない!!あんたがいないとそれすらも最高に愛おしくなるんですよ!!」
「俺の...俺だけの最低な王子様...」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、ひんやりとした手の甲に、額に、唇にそっと口付けをする。
あの映画はやっぱり最悪でしたね。
だって、映画の通りにならないから。

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