第15話

①③
4,773
2018/10/13 23:00
あなた

今日、会社遅刻します

部長
《そうか、わかった》
あなた

すいません、失礼します

会社に遅刻すると連絡をして、ゴミを片付けた。こんなこと初めてで、きっと玄関から少し離れていたときにされたのだろう。自分が恨まれるような事をした覚えはないが、どこでどう人が嫌だと感じるか分からない。現に今こうして、悪戯とは言えないほどの事をされている。
あなた

(.....泣きそう)

込み上げてくるものに懸命に蓋をして、私は会社へと向かった。


折原 千羅
あなたちゃん、大丈夫?
目の前に座っていたセンラさんに、そう小声で訊ねられた。センラさんに朝の事は話していない。顔に出ていたかな、と考えながら 大丈夫ですよ、と返事をする。
折原 千羅
何かあったらゆうんやで?
あなた

ありがとうございます....

その言葉に、じんわりと胸の辺りが温かくなった。その優しさのお陰で気持ちが軽くなり、少し救われた気がした。
先輩 2
ねぇ、加藤さん
センラさんに心配されて口許を緩ませたとき、あまり話したことのない先輩に声をかけられた。ふんわりウェーブのかかった髪に白い肌と大きな目が、可愛らしい印象を与える先輩だ。
先輩 2
今日、お昼一緒にどう?
いきなり声をかけられ、まともに話したこともないのに と不思議に思いはしたが、仲良くなれるチャンスだと 勿論です! と返事をした。
本当? と言って喜ぶ姿も可愛らしくて、本当に年上なのかと疑ってしまうほどだ。
先輩 2
じゃあまたお昼ね!
先輩が自分の机に戻っていったところで、私も仕事を再開させた。家の事も心配だったが、センラさんに心配してもらったからだろうか。朝よりも心が軽くなり、仕事に集中することができた。

昼になり、私は先輩と共に席を立った。
先輩 2
実は、私だけじゃなくて
もう1人いるの。いいよね?
あなた

は、い....

振り返ったときの顔が朝とはなにか雰囲気が違い、言葉をつまらせてしまった。
気が付けば、どんどん人気のない方へ進んでいて、なにか違和感を感じ、また、頭の片隅でセンラさんの事を思い出していた。
あなた

(何でセンラさんの事を
思い出してるの、私...)

恥ずかしい気持ちや不思議に思う気持ちが混ざりあってモヤモヤと胸の中で渦巻いている。頭をブンブンと振ってモヤモヤを払拭しようとした。まぁ、なくなりはしなかったのだが。
すると、先輩が急にピタリと止まった。
あなた

せんぱ....

そのあとの言葉は、手のひらで何かを叩いたような、乾いた音にかき消された。いや、最後まで言えていたのかも分からない。気付けば、私は睨み付けてくる先輩の顔を見上げていた。
先輩 1
あはは、叩いたの?
後ろから、別の先輩が口許に笑みを浮かべながら歩いてきた。訳がわからなくなり、じんじんと痛む頬を押さえながら2人を見つめる。
先輩 2
なんで?って顔してるね
わかんない?
先輩 1
センラくんに媚売ってるからに
決まってるでしょ?
あなた

.....え

さっきまでとは全く違う声のトーンと、思いもよらぬその言葉に、頭の整理が追い付かない。
叩かれた拍子に体制を崩して壁に寄りかかるように座った私を、2人の先輩が取り囲む。すると、髪を引っ張って顔を近付けてきた。
先輩 2
これ以上、センラくんに
近付かないでくれる?
あなた

っ.....!!

痛い。

引っ張られている髪も。

先輩にこんな風に思われていたことも。

全部が、私の胸を締め付けて離さない。

息が苦しい。

辛くて、悲しくて、涙がポロポロと溢れる。

泣きたくないのに止まることを知らない。

やっぱり、私なんかがセンラさんに近付くなんて許されないんだ。そんな思いが、頭を埋めつくした。
先輩 1
この事誰かに話したら、
どうなるかわかってるよね?
そう言ってスマホのディスプレイに美咲さんの写真を表示する。それがどういう意味か、私にも簡単に理解ができた。私が誰かに言えば、美咲さんがどうなるか分からない。

私は、黙って首を縦に振った。

それを確認した先輩達は、満足そうに高笑いしながらその場を去っていった。私は一歩も動けず、その場で静かに涙を流した。

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