第23話

②①
5,016
2018/10/22 22:41
しばらく歩いてから、ふっ と我に返った。

ここ────どこ?
折原 千羅
あなたちゃん、僕ら....
遭難してるんとちゃう?
何回もぐるぐると同じ場所を歩き回っていたようで、見覚えのある景色が私達の回りに並ぶ。
センラさんの言葉に、ダラダラと嫌な汗が吹き出る。先に歩いて進んだのは私だ。 私のせいで、センラさんも迷子に.... そう思うとだんだん焦ってきて、早く合流しなければと頭が真っ白になる。
あなた

センラさんっ!戻りましょ!

焦った私は勢いよく振り返った。センラさんは何てこともない様子で そうやねー と呑気に返事をした。その返答に若干戸惑いつつ、私は来た道を戻ろうと足を踏み出した。
折原 千羅
あなたちゃんっ....!!
あなた

へっ...? っ....!!?



ガサガサガサッ───



草木が揺れる音と共に、私の視界は逆転した。
気が付けば、私の服は泥で汚れ、土の上に倒れ込んでいた。暗い中を目を凝らして見てみると、隣にセンラさんも倒れていた。
あなた

セ、センラさんっ!?

駆け寄ってみると、センラさんは うぅー と唸って眉間に皺を寄せていた。何回か揺らして声をかけると、うっすら目が開いた。
折原 千羅
あなた....ちゃん....?
センラさんはゆっくりと起き上がり、あなたちゃんは大丈夫? と声をかけてくれた。が、そのときに顔が歪んだのを私は見逃さなかった。
あなた

足....

折原 千羅
........
何も言わないセンラさんを無視して、私は足首に手を伸ばした。───腫れている。おそらく捻ったのだろう。その事実は、私を混乱させるには十分すぎた。
あなた

わ、たし....っ...ごめっ、なさっ!

目の前が真っ暗になり、ポツポツと言葉にならない声が紡がれる。目からは涙が止めどなく流れ、何も考えられなくなる。
あなた

わ、たしっ....わたし....っ!

はっ...はっ...はぁっ...はぁっ... と、荒い呼吸だけが耳に届く。苦しい。すると、何かに包まれた。
折原 千羅
大丈夫。大丈夫やよ
落ち着いて、僕に合わせて
ゆっくり呼吸して
何も考えられない頭で、優しく届く言葉だけを頼りにゆっくり呼吸をする。
折原 千羅
すーはー、すーはー、
あなた

すっ、はーっ、すぅっ、はぁー...

ポンポンと背中を撫でられる感覚が心地いい。彼の体温を感じながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
あなた

は...はぁ....

折原 千羅
ん、良くできました
頭を撫でられ、胸の奥がきゅうっと痛くなる。

私のせいで遭難してこんな怪我までして、
なのに何故、そこまで私に優しくしてくれるのか。その優しさが辛かった。きっといつか、別の人を好きになってしまうのに。
折原 千羅
あなたちゃん、安心しぃ
僕がついとるで。な?
あなた

──き、です

折原 千羅
ん?
あなた

好き、です....

あぁ、言ってはいけないのに
あなた

センラさんは、私なんかが
好きになっていい人じゃないのに....

もう、頭が回らない
あなた

好きに....っ!?

目の前には、日に焼けていない白い肌がうつる。ちゅっと短いリップ音が聞こえ、徐々に視界が広がっていく。状況を理解した頃には、別の角度でまた唇に触れた。
あなた

ん....!?

折原 千羅
はっ....あなたちゃん....
センラさんとキスをしたという事実に、まだ頭が追い付かない。真っ赤に染まったであろう自分の顔をつねってみると、痛かった。
折原 千羅
ふふっ、夢やないよ?
センラさんは私の大好きなあのふにゃりとした笑い方で微笑むと、ゆっくり口を開いた。
折原 千羅
あなたちゃん、なんか
勘違いしとるみたいやけど、僕は
あなたちゃんの事が迷惑だなんて
1度も思ったことあらへんよ?
あなた

でも....

私なんかがそばにいていい人じゃない.... そう言おうとしたとき、もう1度唇にキスが落とされた。
折原 千羅
あなたちゃんはいい子や
僕はそんなあなたちゃんが大好きや
それ以外の理由、なんかいる?
両手で頬を包み込み、困った笑顔でそう問いかける。

ずるい、そんな言い方....

断れるわけがない....
あなた

す、き....

折原 千羅
うん
あなた

すきっ....!

折原 千羅
うん
そして私達は、もう1度お互いにキスをした。

今度は、お互いに心のこもったキスで───

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