あの怒濤のライブから、1週間が経った。浦島坂田船のツアーが終わったのが昨日だから、折原さんに会えるのは最低でも明日だろう。
少し残念に思わなくもないが、無理に来て体調を崩してほしくはない。明日か明後日に会えるのを楽しみにしながら、目の前のパソコンと向き合っていた。
私達はこの一週間で仲良くなり、互いに「あなたちゃん」「美咲さん」と呼べる仲になっていた。
後ろから声がして振り返ると、マスクをした折原さんが手を振りながら歩いてきた。
両手を漢字の山のように上げて、元気だよと表してみせる。その姿に違和感を覚えつつ、本人が大丈夫ならそうなのだろうとやり過ごした。
でも、それがいけなかったのだ。
向かいに座る折原さんに、小声で聞いてみる。さっきから咳が止まらないし鼻もずるずると啜っている。やはり体調が万全ではなかったのか....
赤い顔をしながらそう返事をするが、そんな状態で言われても説得力などない。
折原さんの体調を気にしながら、目の前のパソコンに向き直る。すると、カタンと立ち上がり、覚束ない足取りでフラフラと倉庫の方へ歩きだした。
私は心配になり、美咲さんに声だけかけて後をついていった。
折原さんは倉庫で資料を探している様子だったので、私も一緒に探すことにした。
言われた資料を探していると、ガタンッと大きな音がして、続いてバサバサッと資料がいくつも床に落ちた音がした。
嫌な予感がして音のした方へ走ると、赤い顔をした折原さんがハァハァと荒い息をして倒れていた。驚いて近寄り、額に手を当ててみる。
私は焦って、スマホを取り出した。そしてLINEを開き、一番上にいた人に電話を掛けた。
電話に出たのは───
────志麻さんだった。
志麻さんの的確な指示により、私は焦っていた心を静めることが出来た。少し落ち着いたところで、折原さんに 志麻さんが迎えに来てくれますからね と声をかけ、今度は美咲さんにメッセージを打った。
美咲さんの返信を確認したあと、センラさんを起こして声をかける。しかし、辛そうにハァハァと荒い息をするだけで返事がない。座った状態で正面を向いていると、センラさんが急に倒れてきて私にもたれ掛かるような状態になった。
真横にある折原さんの髪からふわりと石鹸の香りが漂ってきて、不謹慎だが弱っている姿も格好いいと、ついつい頬を赤らめて、変態じみた事を考えてしまうのだった。
志麻さんの力を借りて折原さんを車に乗せた。私は一度オフィスに戻って折原さんと自分の鞄をとり、部長に大まかな事情を説明して志麻さんの車に乗り込んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。