私が浦島坂田船と出会ったのは5年前。いつものようにニコニコ動画を見ていたところに、一件の通知が来た。その歌ってみた動画は衝撃的で、すぐにYouTube、Twitterもフォローした。
そして5年、今日から新入社員になる今でも応援している。
私はイヤホンで音楽を聴きながら、新しい生活へと期待を膨らませ、玄関のドアを開けた。
会社までの道のりを、カツカツと慣れないヒールで歩いていく。両サイドの桜が風でざわざわと揺れ、花びらが散る。
その様子を眺めながら、私は心中で歌を口ずさむ。
ガラス張りの建物を見上げ、コクリと小さく唾を飲む。
イヤホンを外し鞄に入れ、自動ドアの前に立つ。
なかなか開かないドアにピョコピョコと跳ねてみたりする。すると、トントンと肩をつつかれた。振り返ると、20代後半ぐらいの綺麗な女の人が、クスリと笑いかけてきた。
見ると確かに取っ手がついていた。カァと顔が赤くなるのを感じながら女の人にお礼をする。
ニコッと微笑む斎藤さんに、思わずくらっと来てしまった。そのくらい、彼女は綺麗だった。
斎藤さんはフフッ、と笑ってドアを開けてくれた。そして、案内するわね と優しく声をかけてくれた。
斎藤さんはエレベーターに乗りながら優しく教えてくれる。こんなに性格良くて美人だったらモテまくりなんだろうなぁ...と、説明を受けている最中に頭の片隅で考える。
すると、チーンという音と共にエレベーターが止まった。私はドアが開くのを待ち、期待と不安を抱きながら、入学式前の学生のような気持ちで足を一歩踏み出した。
斎藤さんに呼ばれ振り返ると、ドンッという衝撃を受けた。私はよろけて転びそうになるのを踏ん張って耐え、顔をあげた。
聞き覚えのある喋り方に体がピクリと反応する。ぼーっと眺めていると、後ろから声がかかった。
表示を見れば確かに5階で、冷ました顔がまたカァと赤くなる。静かに斎藤さんの横に並び、すいません と小声で謝る。
そんな話をしていると、今度こそ7階に着いた。斎藤さんと一緒に降りると、5階で乗ってきた男の人も一緒に降りた。
机を案内してもらい、鞄を置いて ふぅ と一息ついた。
向かいに座った男の人に話しかけられ、ドキッとしながら答える。
目の前の男性は突然吹き出して、口を押さえながら笑いを堪えている。また変な事言ったか、と焦りながら、どんどん熱が上がっていくのを感じた。
焦っているところに、斎藤さんが声をかけてくれた。自己紹介をするから集まって という事らしい。
分かりました と返事をしながら、斎藤さんが呼んだ男性の名前に考えを巡らした。
すると、いつの間にか集まった人達の前に立っていて、考えていた事を一旦頭の中から捨て去り息を吸い込んだ。
パチパチと拍手が鳴り、ひと安心して息をはく。すると、部長らしき人がにこりと笑い、言った。
“折原くん”と呼ばれた人は半円に集まった人達の中からスッと出てきた。それは、あのエレベーターでぶつかった彼だった。
彼───折原 千羅と名乗った私の教育係は、その特徴的な訛りでふわりと微笑んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。