第18話

①⑥
4,936
2018/10/16 22:07
髪の毛からポタポタと滴を垂らしてそう言うセンラさんを、私は勿論、他の人達も全員が目を丸くして見ていた。
折原 千羅
この会議、僕が抜けても
問題ないですよね?
部長
あ、あぁ....
折原 千羅
じゃあ、ちょっと失礼します
....休憩スペースで話そか
そう言って、先輩と私を連れて、センラさんは休憩スペースへと向かった。私は訳が分からなくて、ただただついていった。

折原 千羅
何でこんなことしたん?
2人に問いかけるセンラさんは、怒鳴ってはいなかったものの、怒りがひしひしと伝わっていた。先輩達は、肩を狭くして俯いたままだ。はぁ と一つため息をついて、ポケットからスマホを取り出した。
折原 千羅
これ、覚えとる?
スマホから流れたのは、あのときの会話だった。
先輩 2
《で、会議の前のあれ、
何だったわけ?》
あなた

《何でもないです....》

先輩 1
《2人っきりでなにもない
わけないじゃない》
先輩達はみるみる顔を青くし、目を合わせたりしていた。
折原 千羅
このあと、君達があなたちゃんに
してたことも見とった
声かけたらややこしくなりそう
だったからやめたけど....
こんなことになるならあのときに止めておけば良かった.... そう呟いたセンラさんは、眉間に皺を寄せ、明らかに怒りを見せていた。私は未だに状況がうまく理解できず、ただ呆然と3人の間で交わされる光景を眺めていた。
先輩達
ごめんなさい!
頭を下げて謝ったあと、ちらりと私の方を向いて悲しそうな瞳で睨まれた。
2人が走ってその場を去ったあと、私とセンラさんの間に重い沈黙が流れた。
あなた

あ、あの───....!?

お礼を言おうとしたとき、温かいものに包まれた。それは少し濡れていて、震えていた。
折原 千羅
ごめん....!
気付いてあげられんくて....!
怖かったよな、と、今にも泣きそうな声でそう言われた。センラさんは何も悪くない。むしろ───
あなた

謝るのは私の方ですっ.....!

あんなに避けたのに

酷いことをしたのに

それでもこの人は、自分が悪いと、まるで自分が受けたことのように、一緒になって心配してくれる
あなた

センラさんは悪くな....っ!
わた、しがっ....うっ、ひっく....!

力強くギュッと抱き締められて、なのに全然痛くない。その優しさに、自然と涙が溢れ出る。ボロボロと大粒の雨のような滴が、私の頬やセンラさんのシャツを濡らす。
久しぶりに、人前で泣いた気がした。


折原 千羅
ちょっとは落ち着いた?
あなた

....はい。ありがとうございます

奢ってもらった缶コーヒーを手渡され、温かいそれを握りしめながらセンラさんの顔を見る。ふと、センラさんが口を開いた。
折原 千羅
僕が構ったせいやね.....
ポツリと呟かれたその言葉は、静かな休憩スペースではよく響いた。眉を下げて少し眉間に皺を寄せて、唇を噛み締めているセンラさんは、本当に自分が悪いと後悔している様子だった。
あなた

違います。センラさんの
せいじゃありません

抱き締められてからずっと、そうじゃないかと思っていた。

いや、もしかしたらその前からずっと、心のどこかでそう思っていたんだろう。
あなた

私、センラさんに構われるの、
好きなんです

ダメだと分かっているのに、言葉が紡がれる。
あなた

センラさんと話したり、
何かをするのが凄く好きなんです

折原 千羅
あなたちゃん....
きっと、私は────
あなた

私、“センラー” なんですもん

センラさんを、好きになってしまったんだ。
浦島坂田船の一員じゃなく、一人の男性として。
折原 千羅
僕は、あなたちゃんが.....
でも、
あなた

だからこれからも、
応援してますね!

折原 千羅
っ.....!
でも、この気持ちには蓋をしないといけない。
センラさんは、やっぱりアーティストだ。
ファンもいるし、私一人が独占してはいけない。
きっとこれから、新しい恋もたくさんするだろう。
年の離れた私が、センラさんを独り占めしていいはずがない。
折原 千羅
っ...ありがとう....
センラさんは笑って、そう返事をした。私も笑い返した。───笑い返せていたはずだ。
折角気付けた恋だったのに....
私は、ほんのり温かい缶を、ギュッと握った。

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