唐突のカミングアウトに、私は驚きで身動きが取れなかった。
その理由を自分の頭で考えられる余裕はなかった。
何か話していないと、得体の知れない負の感情が今にも溢れ出てしまいそうだった。
淡々と話す葵くんの口調は、一体何を考えているのかよく分からない。
だってもう、あと数ヶ月しかないよ?
毎朝の早朝練習、放課後のパート練習、いつも隣にいた葵くんがいなくなるなんて、想像したくない。
葵くんは少し目を伏せると、そのままの姿勢で、
と、何の色もついていない声色で答えた。
なんとか声を絞り出して、そう答えるのが精一杯だった。
さっきからずっと俯き加減の葵くんは、もうこの話はしたくないのかもしれない。
しんみりしたこの雰囲気を嫌がっているのかもしれない。
私は、いつも通りの空気に戻そうと平静を装う。
だって葵くんは、引退と、私との別れは何も関係のないことだと思ってるから。
この日はもうこれ以上会話の糸口が見つかることもなく、私だけがずっと苦しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!