あいつ朝から顔ゆるゆるじゃねえか。
俺は、葵の様子をチラ見し続ける明香里を横目で見ていた。
好きな人が好きな人に向けるその目は、俺からしてみたら悔しくて切ない。
でも、なんつーか、なぜかその顔までも見ていたいと思ってしまう。
……あの2人、一体今日何の話をするつもりなんだ。
悶々と考えすぎたせいで、今日はふつーに寝不足。
お前のせいだからな、葵。
睡眠不足の恨みを込めた視線をちくっと刺すが、当然本人は気づかない。
急に視界に入り込んできたもんだから、思わず千紗を睨みつけてしまった。
いつもなら「びっくりさせんな」とか言って返すけど、少し腫れた千紗の目を見たら返す言葉に詰まってしまった。
一瞬流れた気まずい空気にいち早く気づき、俺に気を使わすまいと先回りした言葉を選ぶ。
そう言って、明香里の方に目配せして、そして雄哉に視線を戻した。
そう言い残すと、停車駅にぴょんと降り立ち、明香里の元へ駆けつけた。
それができてたら、今こんな拗らせてねえよ。
俺は、周りに聞こえないように、はあ、と小さくため息をついた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。