第7話

6話
586
2021/02/28 06:31
コンコン
扉を叩く音で目が覚めた
『……だれ?』
ジャミ「ジャミルだ
   入ってもいいか?」
『どうぞ』
ガチャ…バタン
ジャミ「体調はどうだ?よく眠れたか?」
『もう大丈夫です
 ほんとにご心配をお掛けしました』
何か変な夢を見た気もするけど、大して気に留めなかった
ジャミ「それは良かった
   そういえば、クリストファーと連絡がついたんだ」
『何て言ってました?』
ジャミ「朝食を用意してるからさっさと帰ってこいってさ」
『全く…昨日スカラビアに行くよう仕向けたのは誰?』
ジャミ「まあ、あいつなりに心配しているんじゃないのか?」
『そうですかね』
ジャミ「俺の推測だけどな
   念の為俺がフローザイスまで送っていこう
   俺は部屋にいるから、支度が終わったら声をかけてく
   れ」
『わかりました、ありがとうございます』
ガチャ…バタン
明らかにサイズが合っていないバイパーさんの服を脱いで、制服に着替える
『支度って言われても、持ってきたものスマホくらいしかな
 いし……
 あ、バイパーさんの服持って帰って洗濯しないと
 あとは髪を結ぶだけか』
髪は魔法で結んで、周りの水分を一気に凍らせて氷の髪留めを作って留めているので、私が眠って魔力が途切れた時はすぐに解けてしまう
お陰で授業中に居眠りをしようものならすぐに気付かれる
『これでよし…鏡見てないけど大丈夫かな
 とりあえずバイパーさん呼びに行ってくるか』
空き部屋を出てバイパーさんの部屋へ向かう
途中、スカラビア寮生と何人かすれ違った時、私の方を見てヒソヒソとなにか話していた
一応おはようございますだとか、体調は大丈夫ですかとかは言われたけど話の内容が気になって曖昧にしか返せなかった
コンコン
『バイパーさん、支度終わりました』
ガチャ…バタン
ジャミ「そうか、じゃあフローザイスへ向かおう」
『あの、その前に何か袋を貰えないでしょうか…
 お借りした服を持って帰るのにさすがに手に持ったままだ
 と変な目で見られるので』
ジャミ「その服なら滅多に着ないし、もうスカラビアで洗おう」
『いえ、何から何までお世話になりっぱなしでは申し訳ない
 ので
 あ、もしかして洗剤にこだわりとかありますか?』
ジャミ「いや、特にない
   君がそう言うならお言葉に甘えて洗濯してもらうとしよ
   う
   今紙袋を持ってくるから少し待っていてくれ」
『はい』
そういえば、昨日アイス食べ損ねたなぁ
最近ずっと雪の王国の同じ会社のアイスしか食べてないから食べたかったのに…
ジャミ「あなた、持ってきたぞ」
『ありがとうございます
 後日お返ししますね』
ジャミ「ああ、それじゃあフローザイスへ向かおう」
『はい』
フローザイスに着くまで、何か話すことはないかと考える
『そういえば…スカラビアの洗剤って、いい匂いですね』
ジャミ「そうか?」
『昨日、制服の匂いを嗅いだ時に普段と全然違って…
 フローザイスも悪い洗剤は使ってないんですけど』
ジャミ「まあ、熱砂の国の高級洗剤だからな
   君が嗅いだことがなくても当然だろう
   フローザイスはどんな洗剤を使っているんだ?
『その…私が潔癖症、というか何と言うか
 洗濯とか掃除とかは妥協できなくて、市販のメーカーじゃ
 不安なので雪の王国の職人さんにオーダーメイドで作って
 もらっているんです』
ジャミ「ほう…それは楽しみだ」
『でも、あくまで私の好みなのであんまり期待しないでくだ
 さいね』
ジャミ「そこまで君の趣味が悪いとは思っていないが」
『さぁ、どうでしょうかね』
そんなことを話していたらフローザイスに着いた
ジャミ「じゃあ俺はこれで
   またいつでも来てくれ
   その…宴が苦手ならカリムに言っておくし、俺に言って
   こっそりアイスを食べに来てもいい」
『ありがとうございます
 後日服をお返ししに伺うのでその時にでもお願いします』
ジャミ「ああ」
NRCの生徒は個性的な人が多い
男子校で唯一の女子である私に対しての対応も様々
特に入学当初は色んな人に絡まれた
私は元々人見知りするタイプだったけど、それからさらに他人に対する警戒心が強くなった
それでも安心して話せるひとは何人かいる
ハーツラビュルのクローバー先輩やイデア先輩、昨日スカラビアに訪れてバイパーさんとも少し安心して話せるようになった
『普段は押しかけてくるアジームさんの付き添いって感じで
 あんまり話さなかったけど、いい人そうで良かったなぁ』
フローザイスに帰るとすぐにクリストファーが出てきた
クリ「あなた、大丈夫だったか!?」
『誰かさんが無理矢理スカラビアに行かせたせいで倒れたみ
 たいだけど、大丈夫』
クリ「う……悪い
  あなたに無理をさせるつもりはなかったんだけど…」
『じゃあどうしてすぐに連絡がつかなかったの?』
クリ「それが…!」
『私、何かした?』
クリ「…は?」
『何か悪いことでもしたから連絡もつかないし無理矢理スカ
 ラビアに行かされたんじゃないかと思って…』
クリ「何もしてねーよ
  お前をスカラビアに行かせたのはパーティーや宴の途中で
  倒れるのを治すきっかけが欲しかったんだ」
『どういうこと?』
クリ「お前が宴やパーティーに参加しなくなってからだいぶ経つ
  だろ?
  そろそろ大丈夫なんじゃないかと思って、熱砂の国の食事
  とか音楽とか今まで1度も味わったこと無かったし、何か
  変わるんじゃないかと思ったんだ
  でも、結局変わらなかった……ごめん」
『そうだったの
 過ぎたことだし、 私のためを思ってくれてたならもういい
 や』
クリ「怒ってないのか?」
『怒ってるように見える?』
クリ「はぁ……良かった」
『あ、そうそう
 これ、寮の洗濯物とは別に洗濯しといて』
クリ「ん、なんだこれ…服?」
『倒れた時にバイパーさんが貸してくれたの』
クリ「お前が他人の服着るとか…珍しいな」
『私が進んで着たんじゃなくて、倒れた時に寝苦しくないよ
 うに着替えさせてくれたらしい』
クリ「は……?え、着替えさせたってまさか…」
『私も一瞬そう思ったけど、目隠ししてやってくれたんだっ
 て
 アジームさんは妹さんも沢山いるからそういうのも仕込ま
 れてるって言ってた』
クリ「お前それ信じたのか…嘘かもしれねぇだろ!?
  はぁ…ジャミルは大丈夫だと思ってたのに
  しかもご丁寧に自分の服まで着せやがって……
  内心彼シャツみてーだなとか思ってたんだろーなぁ…
  あーもうスカラビアなんか行かせるんじゃなかった…」
『ちょっとクリストファー!失礼でしょ?
 バイパーさんいい人だしそんなことないに決まってるよ
 それに私にそんなことしても何の得もないじゃん』
クリ「お前ほんとそーいうとこどーにかしろよ…
  マジで俺が悪かったから、もうスカラビアには行くな
  よ?」
『は?意味わかんないんだけど』
クリ「とりあえず!もう行かせねーから!
  授業の時も極力ジャミルと話すな!」
『えー、じゃあその服どーするの?』
クリ「これは俺が届けに行く…」
『わかったけど、洗濯だけはちゃんとしてよね』
クリ「ああ…」
『(急に怒り出してどうしたんだろ…
  バイパーさん普通にいい人だと思うけどなぁ)』
ここから少し作者side



ちなみに実際はどうだったかというと、
ジャミ「とりあえず俺の部屋に運んだはいいが…
   制服だとシワが着くし寝苦しいよな…
   生憎女性用の服は1着もないが、それでも少しマシなも
   のを…」
ジャミ「さすがに普段来てるのは嫌がりそうだな
   これなら普段来てないし、サイズも少し大きいが大丈夫
   だろう」
ジャミ「(…………………………
   これ、俺が着替えさせるのか……)」
ジャミ「(しまった、何も考えてなかった
   そういえば、ミドルスクールの時に念の為にと女性の着
   替えさせ方を教わったな…)」
ジャミ「(目隠しは……制服のネクタイでいいか)」
ジャミ「(………………でも、あなたは寝てるし別に目隠ししなくて
   もいいんじゃないか…?)
ジャミ「(いや、何を考えているんだ俺は
   そんなことは人として…男として最低だ
   熟慮の精神に基づくスカラビアの副寮長ともあろう俺が
   そんなことをしていいはずがない!
   そもそもあなたが起きたらどうするんだ)」
ジャミ「(だが……誰も見ていないし、いや駄目だ!
   あーもう!カリムより世話がやける人間がいるとは思わ
   なかった…)」
と、めちゃくちゃ悩んだ末にしっかり目隠しして着替えさせるジャミル・思春期・バイパーくんでした🐍

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