あの日、ちんちくりんを泣かせてから
LIMEの返事が返ってこなくなった。
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既読はつくのにガン無視だ。
あの日から、あいつの泣き顔が
頭にこびりついて離れねえ。
泣かせたことなんて星の数ほどあるのに
こんなに悩むのは初めてだ。
ぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きむしって
イライラは最高潮。
クズな発言に慣れすぎて
逆に謝り方なんて知らねえし。
イライラと授業準備を始めると
ひらりと机から出てきたラブレターを見て
また深いため息が漏れた。
本当に面倒くせえ。
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またしても既読スルー。
仕方なく俺は一人で告白を断ることにした。
何度来たか分からない放課後の中庭で
深く息を吐いた。
そうやって自分に言い聞かせても
なぜだかちんちくりんの泣き顔が浮かんで
胸がもやもやする。
目の前にはいかにもって感じの女。
長いロングヘアをくるくると巻いて
きつい香水のニオイに吐き気がする。
やけに大人びた目元のホクロが
大嫌いな母親にソックリで───
思わず後ずさるも
目の前の女はじりりと俺ににじり寄ってきた。
ビリッ
手紙を女の目の前で真っ二つに破る。
こうすると大抵の女は泣いて去っていくんだ。
女は全く怯むことなく
数十枚もあるラブレターを
スクールバッグから取り出した。
この女、ヤバい。
すり寄ってくる女が
俺に抱きつこうと手をのばす。
とっさに腕を払いのけると
女はスクールバッグを地面に落とした。
バラバラと落ちた何かを拾う女。
それには見覚えがあった。
俺は思わずその場から逃げ出した。
全身に鳥肌がたち、手足は震えてうまく走れない。
後ろを振り向くと、女は笑顔で追ってくる。
俺は必死で逃げた。
女から死角の木の影に隠れ
震える手でスマホを取り出し助けを求める。
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頼れるのはあのちんちくりんしかいない。
ぜえはあと息があがり、例の発作が出そうだ。
しかし既読がついても返事が来ない。
焦った俺は通話ボタンを押した。
女に電話なんかしたこと無いのに───
するとすぐ近くからスマホの着信音が聞こえた。
そして慌てるような声も。
あのちんちくりんがスマホを持って
植木の影から顔を出していた。
気まずそうに目をそらすちんちくりん。
その顔を見た瞬間心底ホッとして力が抜けた。
俺はちんちくりんの手を掴み
情けなくもその場にしゃがみこんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!