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第17話

サイテーな味


突然、先輩に抱きしめられてしまった。

少しだけ震えるような「ごめん」とともに
先輩は名残惜しそうに私を離す。

楠木大雅
楠木大雅
おかゆ……作ってくれるんだ
椎名まこと
椎名まこと
は、はい…!
すぐ作りますね!

びっくりした……!


ドキドキと高まる鼓動を必死にごまかして、
先輩の家へとお邪魔する。

なんだか風邪を引いてから
先輩のスキンシップが増えている気がする。

正直、心臓に悪い。
楠木大雅
楠木大雅
ここキッチン……
冷蔵庫の中は好きに使って
あと、俺の部屋は2階な
ちょっとキツイから休んでくる
椎名まこと
椎名まこと
一人で大丈夫ですか?
楠木大雅
楠木大雅
 今はお前がいんだろ


ぼそっと恥ずかしそうにそう呟いて
先輩は2階へ上がっていった。


案内されたキッチンは使い込まれてない感じで
少し生活感がない。
椎名まこと
椎名まこと
よかった卵あった
賞味期限は……きれてない!

病気がちの母にいつも作っていたたまごかゆ
自信がある料理のひとつだ。

母直伝の土鍋で作る優しい味。
椎名まこと
椎名まこと
先輩、気に入ってくれるかな?

弱った先輩と病気がちだった母を重ねてしまって、
つい放っておけなくなってしまった。

本当はすぐに学校に戻るつもりだったのに……。
椎名まこと
椎名まこと
私、何してるんだろう

ふたをした土鍋から吹きこぼれる泡は
まるで私の気持ちみたい。

蓋をしても無駄だって言ってるみたい。

椎名まこと
椎名まこと
味は……よし!完璧!

いつもより上手にできた。

少し冷まして先輩の部屋がある2階へとお粥を運ぶ。
楠木大雅
楠木大雅
 うっ……しーな……


苦しそうな声が聞こえ
そこが先輩の部屋だとすぐに分かった。

椎名まこと
椎名まこと
先輩?
お粥できましたよ

ドアを開けた先には、黒を基調とした
男の人っぽいシックな部屋。

初めて入る男の子の部屋に少しドキドキする。

これが……先輩の部屋?
楠木大雅
楠木大雅
おい、何じろじろ見てんだよ……
恥ずかしいからやめろ
椎名まこと
椎名まこと
っすみません!
楠木大雅
楠木大雅
腹減った……
 
ベッドで起き上がった先輩にお粥を渡すと
こちらをじっと上目遣いで見上げてくる。
楠木大雅
楠木大雅
熱い
椎名まこと
椎名まこと
少し冷ましたんですけど
楠木大雅
楠木大雅
俺、ねこ舌なんだよ
もっと冷まして
椎名まこと
椎名まこと
え!
楠木大雅
楠木大雅
ふーふーしろ!
椎名まこと
椎名まこと
自分でやって下さい!
楠木大雅
楠木大雅
彼女なんだからいーだろ
椎名まこと
椎名まこと
わ、わかりましたよ!

まるで駄々をこねる子供だ。

ふぅふぅとお粥を冷まして先輩に器を渡すと
無邪気にありがとうと笑った。

椎名まこと
椎名まこと
(うっ……先輩のくせに!か、かわいい。私の気も知らないで!)

先輩への気持ちに蓋をすればするほど、
どんどん沸騰してこぼれてくる。

先輩はそんな私の気持ちなんてお構いなしに、
もぐもぐとお粥を頬張った。
椎名まこと
椎名まこと
そんなに
口に入れなくても!



​────次の瞬間。

なぜか先輩の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
楠木大雅
楠木大雅
不味い
椎名まこと
椎名まこと
ええ?!嘘!
塩加減間違えました?
でも味見もしたんですよ!

ぼろぼろと涙を流す先輩。
男の人の涙なんてはじめて見た……!
椎名まこと
椎名まこと
あの!つ、作り直します!
楠木大雅
楠木大雅
いい

先輩は私の手を払いのけてまたお粥を食べ始めた。

そして少し落ち着いた頃、
先輩はベッドの横をぽんぽんと叩く。
楠木大雅
楠木大雅
しーな、座って
椎名まこと
椎名まこと
えと……はい

じっと潤んだ目で私を見つめ
先輩は静かに語り始める。
楠木大雅
楠木大雅
この味、俺にとっては
サイテーの味
椎名まこと
椎名まこと
サイテー……ですか
楠木大雅
楠木大雅
優しすぎる
椎名まこと
椎名まこと
え?
楠木大雅
楠木大雅
ずっと小さい頃
母親が作ってくれたお粥も
こんな味だったなって
思い出したんだ
椎名まこと
椎名まこと
母親って…
確か、いないって言い張ってたけど。
楠木大雅
楠木大雅
……そいつ、俺の母親はさ
仕事ばっかの父親に見捨てられて
どんどんヒステリックになってさ
楠木大雅
楠木大雅
誰にも止められなくなって
まだ小さかった俺の首を絞めたんだ
椎名まこと
椎名まこと
そんな……!
楠木大雅
楠木大雅
だから、優しかった頃なんて
思い出してもつらいだけなんだ
優しい味は俺にとっては
サイテーな味ってこと、残酷だよな

あまりに悲しい過去を聞いたせいか
次の言葉が見つからない。

多分、何を言っても間違いだ。
楠木大雅
楠木大雅
それから俺、首がつまる服とか
一切着られなくなって
誰かに首を触られると
発作が起こるようになったんだ
椎名まこと
椎名まこと
あ、だからあの日……

先輩と初めて会った日
私は先輩の胸ぐらに掴みかかった。

突然息が荒くなり気絶したのは
そのせいだったんだ​───。
椎名まこと
椎名まこと
ごめんなさい
楠木大雅
楠木大雅
いーんだよ

先輩はぽんと私の頭に手をのせる。

楠木大雅
楠木大雅
俺さ、母親に殺されかけた時思ったんだ
女は醜い生き物だから
傷つけられる前に遠ざけようって
椎名まこと
椎名まこと
……そうだったんですね
だから先輩は……
楠木大雅
楠木大雅
クズってわけ
楠木大雅
楠木大雅
でも、もっと早く
しーなに出会ってたら
なんか違ったのかもな
椎名まこと
椎名まこと
え?

くしゃくしゃと私の頭を強引に撫でて
先輩は何かをごまかすように小さく笑った。