─────クズは嫌いです。
そう言って私は先輩から逃げた。
だってあれ以上クズ発言を聞いていたら
サイテーな父親を思い出しそうだったから。
私の父は病気の母が危篤になっても
お見舞いにすら来なかった。
私が最後に見たのは母の寂しそうな笑顔だった。
チョークがこつんと頭に飛んできて飛び起きる。
なんだか今日は授業に身が入らず
気づけば放課後だった。
終業のチャイムとともにポコンと
スマホに通知が入る。
***
***
平行線のやり取りをしていたら
ほのかがひょいとスマホを覗き込んできた。
上目遣いのあざとい瞳。
まるでうさぎみたいな潤んだ目に
同性なのに思わず胸がキュンとする。
うぐ……可愛い。
こうやって頼られると断れないんだよなぁ……。
少しだけ自分のお節介が鬱陶しく思った。
先輩からの連絡は無視無視!
そう思って下駄箱から駆け出したその時────
下駄箱の横から現れたのは楠木先輩。
まさか待ち伏せしているとは……。
本当に酷い言い訳だ。
先輩はぐっと私の手首を掴んで歩き出した。
怒っているのか
耳を真っ赤にして先輩は前を歩く。
立ち止まった先輩はこちらを向く。
目の前の端正な顔に、思わず息が止まった。
「責任」なんて、まるで脅しだ。
でもどうしてだろう。
顔は熱いし、心臓はドキドキうるさい。
私は自分にそう言い聞かせて
それ以上深く考えるのはやめた。
そこは可愛いテラス席のあるパン屋さん。
クズには似つかわしくない
ファンシーな外装に思わず吹き出しそうになる。
全然似合わない。
思わず声が裏返った。
私達は店に入り
パンと飲み物を注文してテラス席に座った。
先輩は相当な甘党なのか
いちごオレにいちごジャムパン。
これがギャップというものなのか……?
似つかわしくないパンを頬張りながら
先輩は私から目をそらす。
悪びれもせずそう言って
「いいだろ?」とお得意の子犬顔。
本当にタチが悪い。
先輩の更生には
まだまだ時間がかかりそうだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。