第10話

放課後デートに誘われました
5,191
2020/12/11 09:00

​─────クズは嫌いです。

そう言って私は先輩から逃げた。

だってあれ以上クズ発言を聞いていたら
サイテーな父親を思い出しそうだったから。

私の父は病気の母が危篤きとくになっても
お見舞いにすら来なかった。

あなたがいれば私は十分よ
椎名まこと
椎名まこと
お母さん……でも
お父さんのことはもういいの
もし私が死んだら、
あんな人放っておいて
あなただけは幸せになるのよ

私が最後に見たのは母の寂しそうな笑顔だった。
先生
椎名!
起きろ椎名!!
椎名まこと
椎名まこと
いたっ!!
チョークがこつんと頭に飛んできて飛び起きる。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まこと、授業中だよ
椎名まこと
椎名まこと
あれ?
す、すみません…

なんだか今日は授業に身が入らず
気づけば放課後だった。

終業のチャイムとともにポコンと
スマホに通知が入る。
***
大雅
今すぐ来い
まこと
いやです
大雅
ダメだ、来い
まこと
いやです!!
***

平行線のやり取りをしていたら
ほのかがひょいとスマホを覗き込んできた。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
もしかして先輩?
LIMEのID聞いてくれた?
椎名まこと
椎名まこと
あ、それが断られちゃって…
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
そっか、じゃあもっと
プッシュしておいて!
ほのか、まことしか頼れないし~
上目遣いのあざとい瞳。

まるでうさぎみたいな潤んだ目に
同性なのに思わず胸がキュンとする。

うぐ……可愛い。
椎名まこと
椎名まこと
わかった!
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
やった~!
まことだ~い好き♡

こうやって頼られると断れないんだよなぁ……。
少しだけ自分のお節介が鬱陶しく思った。


椎名まこと
椎名まこと
(さて、今日はもう帰ろう!)


先輩からの連絡は無視無視!

そう思って下駄箱から駆け出したその時​────
楠木大雅
楠木大雅
無視すんな
下駄箱の横から現れたのは楠木先輩。
まさか待ち伏せしているとは……。
椎名まこと
椎名まこと
な、何か用ですか?
楠木大雅
楠木大雅
用がなきゃ
わざわざ連絡したりしねーだろ
椎名まこと
椎名まこと
なんですか
楠木大雅
楠木大雅
えっとその…… 悪かった
椎名まこと
椎名まこと
先輩も
謝れるんですね
楠木大雅
楠木大雅
俺だって、それくらいできる!
それにいいたくて
言ったんじゃねーし…
椎名まこと
椎名まこと
思ってもないなら
言わないでください
楠木大雅
楠木大雅
……でも、その、
口が勝手にクズなこと
言っちまうんだ
椎名まこと
椎名まこと
なんですかそれ
楠木大雅
楠木大雅
俺はクズが癖になってんだよ!
椎名まこと
椎名まこと
はぁ!?

本当に酷い言い訳だ。

楠木大雅
楠木大雅
……ってやてもいい
椎名まこと
椎名まこと
え?
楠木大雅
楠木大雅
今日は特別に奢ってやってもいい
だから来い

先輩はぐっと私の手首を掴んで歩き出した。
椎名まこと
椎名まこと
あの、ちょっと!
楠木大雅
楠木大雅
忘れたのかよ
まずは放課後デートだろ?
お前がそう言ったんだろーが

怒っているのか
耳を真っ赤にして先輩は前を歩く。
椎名まこと
椎名まこと
先輩更生計画のことですか?
楠木大雅
楠木大雅
それしかねーだろ
椎名まこと
椎名まこと
別に私とじゃなくても、
楠木大雅
楠木大雅
お前しかムリ

立ち止まった先輩はこちらを向く。
目の前の端正な顔に、思わず息が止まった。
楠木大雅
楠木大雅
しーなは俺の彼女だろ
俺が更生するまで責任取れよ


「責任」なんて、まるで脅しだ。

でもどうしてだろう。
顔は熱いし、心臓はドキドキうるさい。
椎名まこと
椎名まこと
(きっとこれは……
ただのクズアレルギーだ!)


私は自分にそう言い聞かせて
それ以上深く考えるのはやめた。



楠木大雅
楠木大雅
ついたぞ
椎名まこと
椎名まこと
ベーカリーカフェ……
ですか?

そこは可愛いテラス席のあるパン屋さん。

クズには似つかわしくない
ファンシーな外装に思わず吹き出しそうになる。

全然似合わない。
楠木大雅
楠木大雅
お前、あんパン好きだろ
椎名まこと
椎名まこと
え!?どうして
知ってるんですか?
楠木大雅
楠木大雅
前に俺を追いかけてきた
ヤバい女が言ってたんだよ
椎名まこと
椎名まこと
よく覚えてましたね…
楠木大雅
楠木大雅
自慢じゃねえけど
俺1度聞いたことは忘れねーの
こう見えて成績は学年1位だから
椎名まこと
椎名まこと
へ!?

思わず声が裏返った。
椎名まこと
椎名まこと
意外です……
クズはみんなバカだと
思ってました
楠木大雅
楠木大雅
バカって……
しーなってたまに
心にグサッとくること言うよな
椎名まこと
椎名まこと
す、すみません

私達は店に入り
パンと飲み物を注文してテラス席に座った。

先輩は相当な甘党なのか
いちごオレにいちごジャムパン。

これがギャップというものなのか……?
楠木大雅
楠木大雅
あ~、悪い……

似つかわしくないパンを頬張りながら
先輩は私から目をそらす。
椎名まこと
椎名まこと
どうかしました?
楠木大雅
楠木大雅
やっぱ奢って?
…… 財布、忘れたわ
椎名まこと
椎名まこと
はぁ!?

悪びれもせずそう言って
「いいだろ?」とお得意の子犬顔。

本当にタチが悪い。
椎名まこと
椎名まこと
やっぱり先輩はクズですね!!

先輩の更生には
まだまだ時間がかかりそうだ。


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