甘ったるい香水の香り
振り乱した長い髪
そして真っ赤な口紅──。
俺は女が大嫌いだ。
まだ俺が5歳の頃
母親はヒステリックに叫びながら俺の首を絞めた。
苦しくて、悲しくて、勝手に涙が溢れてくる。
苦しむ俺を見て母親は笑った。
首にまとわりつく湿った手の感触。
それがトラウマで
首元がつまる襟の服が着れなくなった。
両親が離婚して、母親と離れて暮らす今でも
制服の首元をゆるめないとたまに発作が起こる。
父親は仕事ばかりで家に帰って来ず
母親はそんな父親をずっと待ち続けた。
俺には見向きもせず、甘ったるい香水をふりかけ
胸元の開いた服を着て「女」を出す母親が
大嫌いだった。
暗闇の中、遠くから澄んだ声が聞こえた。
まるで香水とは真逆の太陽の匂いで
自然と心が安らいでいく。
目を開けると、ちんちくりんな女が
しゃがみこんで俺を見下ろしていた。
慌てて起き上がって、距離を取る。
するとちんちくりんは申し訳なさそうに謝った。
ガッとちんちくりんの頬を掴んで脅す。
こうやって低い声で脅せば
大体の女は怖がって逃げていく。
告白してくる女に何度この手を使ったことか……。
でもちんちくりんは
負けじと大きな目で俺を睨み返してきた。
やけに柔らかい頬から手を離し
深い溜息を吐いた。
この女の記憶を消去するには
どうしたらいいか、考えを巡らせる。
コ、コイツ……俺を脅すつもりか?
屈託のない目でこちらを
まじまじと見つめてくるちんちくりんの女。
全く考えが読めない。
何も答えないでいると
ちんちくりんが近寄ってきた。
何が「良かったです」だ!
こっちは秘密がバレて気が気じゃねえってのに。
ジロリとちんちくりんの女を見下ろすと
無邪気そうな顔で俺を観察している。
コイツ……アホなのか?
噂がウソだったからって
俺がクズじゃないとは限らないだろ。
確かにクズを演じてる時もあるけど
俺は素でクズだぞ。
さっき気絶したせいか、いつもぽんぽん
出てくるクズ発言も全く思いつかない。
こんなに長い時間女といるのに
不思議と不快じゃないことにも調子が狂う。
そして俺は、頭を捻った結果ある答えに行きついた。
クズな自分にひとしきり称賛を送った後
俺はある提案をする。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。