第15話

モヤモヤの正体
4,382
2021/01/15 10:52


​────私、一体何から逃げてるんだろう。

無意識に握っていた手のひらは汗ばんでいた。
目からは涙が溢れて、胸がモヤモヤする。


どうして?
女子
ねぇ、昨日のドラマみた?
女子
みたみた!
あれは確実に恋に落ちてるよね〜
主人公、自分の気持ちに鈍感すぎでしょ
椎名まこと
椎名まこと
恋?
女子
胸がモヤモヤするのが病気だなんて
そんなわけあるか〜って
女子
それな〜!

そっか……これって、「恋」だったんだ。


やけにストンとに落ちて
私はやっと自分の気持ちに気づいた。

「クズアレルギー」だなんて名付けていた
このモヤモヤも、きっと恋のせいだったんだ。

椎名まこと
椎名まこと
 私、先輩のこと好きだったんだ…

声に出すと頬がカッと熱くなる。

なにこれ​、こんなの知らない。




でも​────
椎名まこと
椎名まこと
(この気持ちは隠し通さなきゃ
先輩に知られたらきっと……
今の関係は終わりだよね)

だって、私達の関係はただの「恋人のフリ」だから。

私は気づいたばかりの感情にふたをした。








翌日。
少し腫れぼったい目をこすりながら登校する。

ポコンとスマホの通知音が鳴って
確認すると見慣れた名前。

椎名まこと
椎名まこと
わっ、先輩?
***
大雅
いますぐこい
話がある
***

こんな朝早くから、なんだろう……。
もしかして、恋人のフリは今日で終わりなのかな?


目の奥にこびりつくのは先輩とほのかの姿。
 皮肉にも恋を自覚してから「好き」が
どんどん大きくなってる気がする。

椎名まこと
椎名まこと
ならいっそ、こんな関係
はやく終わらせないとね……

私は大きく深呼吸をして
いつもの裏階段へと向かった。


先輩のお気に入りの校舎裏階段。

思い切って階段を登ろうとした時
横にうずくまっている人影に気づく。
椎名まこと
椎名まこと
って、先輩?
どうしたんですか!?
楠木大雅
楠木大雅
あ……しーな、悪い

先輩は弱い声を絞り出し
肩で苦しそうに息をしている。
椎名まこと
椎名まこと
ちょっとおでこ触りますよ?
楠木大雅
楠木大雅
……う
椎名まこと
椎名まこと
熱っ!すごい熱ですよ
やっぱり昨日から
体調悪かったんですね?
楠木大雅
楠木大雅
お、俺しーなに
言いたいことが…あって
椎名まこと
椎名まこと
そんなのいつでもいいですよ!
とにかく保健室に行きましょう!
楠木大雅
楠木大雅
ほけんしつ?
女教師……ムリ
椎名まこと
椎名まこと
そんなこと言ってる場合ですか!
ほら、肩につかまって!


まるで大きな布団を背中に担ぐように
先輩を保健室へと運ぶ。


正直、すごく重い!


キーンコーンカーンコーン……。

朝礼のチャイムが鳴り響いた時、やっと
保健室にたどり着いた。
椎名まこと
椎名まこと
すみません!
先輩がすごい熱なんです!!

ドアを開けても先生の姿は見えない。

椎名まこと
椎名まこと
あれ?いない……お、重い
とりあえずベッド行きますよ!
楠木大雅
楠木大雅
悪い……な
椎名まこと
椎名まこと
いいですよ
これくらいっうわあ!!

ドサッ

先輩ごとベッドへと倒れ込んでしまった。
うつ伏せ状態の私の上に先輩がのしかかっている。
椎名まこと
椎名まこと
あ、あの!
ちょっとだけ頑張って上から
どいてくれませんか?
楠木大雅
楠木大雅
……ん

やけに色っぽい声にドキリと心臓が跳ねた。
楠木大雅
楠木大雅
しーな…
椎名まこと
椎名まこと
え!?うわっ!
せ、先輩!?

どうしてこうなった……!?

ごろんと私の上から退いたと思ったら
そのまま腕をお腹に回され
しっかりホールドされてしまった

まるで抱き枕状態だ。
椎名まこと
椎名まこと
先輩、寝ぼけてるんですか?
離して下さい!
楠木大雅
楠木大雅
いやだ

ぎゅっと後ろから強く抱きしめられて
更に密着してしまう。
椎名まこと
椎名まこと
ちょっと
いい加減、怒りますよ!

私の気も知らないで……!

楠木大雅
楠木大雅
……行くな
椎名まこと
椎名まこと
え?
楠木大雅
楠木大雅
いくな…しーな
椎名まこと
椎名まこと
せん、ぱい?



まるで泣いているようなかすれた声。

私はその場から動けなくなってしまった。



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