────私、一体何から逃げてるんだろう。
無意識に握っていた手のひらは汗ばんでいた。
目からは涙が溢れて、胸がモヤモヤする。
どうして?
そっか……これって、「恋」だったんだ。
やけにストンと腑に落ちて
私はやっと自分の気持ちに気づいた。
「クズアレルギー」だなんて名付けていた
このモヤモヤも、きっと恋のせいだったんだ。
声に出すと頬がカッと熱くなる。
なにこれ、こんなの知らない。
でも────
だって、私達の関係はただの「恋人のフリ」だから。
私は気づいたばかりの感情に蓋をした。
翌日。
少し腫れぼったい目をこすりながら登校する。
ポコンとスマホの通知音が鳴って
確認すると見慣れた名前。
***
***
こんな朝早くから、なんだろう……。
もしかして、恋人のフリは今日で終わりなのかな?
目の奥にこびりつくのは先輩とほのかの姿。
皮肉にも恋を自覚してから「好き」が
どんどん大きくなってる気がする。
私は大きく深呼吸をして
いつもの裏階段へと向かった。
先輩のお気に入りの校舎裏階段。
思い切って階段を登ろうとした時
横にうずくまっている人影に気づく。
先輩は弱い声を絞り出し
肩で苦しそうに息をしている。
まるで大きな布団を背中に担ぐように
先輩を保健室へと運ぶ。
正直、すごく重い!
キーンコーンカーンコーン……。
朝礼のチャイムが鳴り響いた時、やっと
保健室にたどり着いた。
ドアを開けても先生の姿は見えない。
ドサッ
先輩ごとベッドへと倒れ込んでしまった。
うつ伏せ状態の私の上に先輩がのしかかっている。
やけに色っぽい声にドキリと心臓が跳ねた。
どうしてこうなった……!?
ごろんと私の上から退いたと思ったら
そのまま腕をお腹に回され
しっかりホールドされてしまった
まるで抱き枕状態だ。
ぎゅっと後ろから強く抱きしめられて
更に密着してしまう。
私の気も知らないで……!
まるで泣いているようなかすれた声。
私はその場から動けなくなってしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。