第22話

突然の拒絶
3,780
2021/03/05 09:00


はぁ……。

深いため息とともに重い足取りで校門をくぐる。

まさか私にとんでもなくクズな噂が
流れているなんて。

噂を流した犯人はもうわかってる。
椎名まこと
椎名まこと
ほのかだろうな…
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
え?
ほのか、何かした?
椎名まこと
椎名まこと
うわあ!
元凶がひょっこり現れて、思わず後ずさる。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
なに怖い顔してるの?
ほら、一緒に教室まで行こ?
椎名まこと
椎名まこと
ええ!?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
ねえ~早く!

まるで昨日何もなかったかのような
いつもどおりの対応。


どういうこと?
昨日のアレは夢だったの!?
椎名まこと
椎名まこと
(これは…絶対に裏がある)
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まことー!
早くこないとホームルーム
始まっちゃうよ!
椎名まこと
椎名まこと
(怪しすぎなんだけど!)

教室に入ると、昨日とは打って変わって
笑顔の女子たちが私を取り囲んだ。
女子
大変だったね椎名さん
椎名まこと
椎名まこと
え?
女子
クズな先輩の呪縛から
やっと解放されたんだって?
椎名まこと
椎名まこと
はい!?
女子
無理やり付き合わされてたんでしょ?
怖かったよね
椎名まこと
椎名まこと
どういうこと?

まるで話がわからない。

ほのかの方に視線をやると
なんだか意味深な笑みを浮かべていた。
椎名まこと
椎名まこと
ほのか、どういうこと?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
まことの悪い噂はほのかが
ぜーんぶ消してあげたんだよ?
椎名まこと
椎名まこと
そもそも噂を流したのは
ほのかでしょ?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
ヒドイ!
そんな風に思ってたの?
まるで女優のように悲しそうな顔を作り
ほのかは私に抱きついてくる。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
ほのかはただ、
まことをクズから
守っただけなのに
椎名まこと
椎名まこと
守る?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
そうだよ
ずっと洗脳されてたんでしょ?
あのクズ先輩に
椎名まこと
椎名まこと
先輩はクズじゃない!
離して!

ばっとほのかの手を振り払うと
彼女は心底心配そうな顔で私を見つめた。
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
クズじゃないって…
本当にそう思ってるの?
まこと可哀想…
きっと今日全部わかるよ
椎名まこと
椎名まこと
え?

彼女は意味深な言葉を残し席についた。
なぜかすごく嫌な予感がして、背中には汗が伝う。

朝のチャイムがやけに遠く聞こえた。





​───昼休み。

***
大雅
今すぐ来い

***
いつもどおりの呼び出しにほっとする。


良かった……先輩は昨日と何も変わらない。


すり寄ってくる女子たちから逃げるように
私はお決まりの裏階段に急いで向かった。

椎名まこと
椎名まこと
先輩!
おまたせしました!
楠木大雅
楠木大雅
しーな…

一瞬、先輩の顔が曇る。


あれ?
気のせいだよね?
椎名まこと
椎名まこと
これ見て下さい!
更生計画を新しくノートに
まとめてみたんですよ!
椎名まこと
椎名まこと
もっと細かく段階を
踏んでいくのもありだと思って…

頑張って作ったノートを取り出して開くと
それをすっと先輩に奪われた。
楠木大雅
楠木大雅
……
椎名まこと
椎名まこと
先輩?
楠木大雅
楠木大雅
もうこれ、いらねーわ
次の瞬間、私のノートがみるも無残に
目の前で破り捨てられた。
バリッ、ビリ……!

一瞬、何が起きたのか分からなかった。
何度も何度も先輩はノートを引き裂く。


破れたノートの破片がはらはらと落ちていった。
椎名まこと
椎名まこと
なに、して
楠木大雅
楠木大雅
うぜえんだよ
今まで聞いたことのないような低い声が響いた。
椎名まこと
椎名まこと
え?
楠木大雅
楠木大雅
うぜえって言ってんだよ
お前の存在が迷惑
椎名まこと
椎名まこと
めいわく?
楠木大雅
楠木大雅
そうだよ
こういうお節介は
もう懲り懲りなんだよ
こんなの、きっとなにかの間違いだ。
椎名まこと
椎名まこと
先輩?どうしたんですか?
もしかして誰かに何か言われたんじゃ
楠木大雅
楠木大雅
は?
だからそういうのが
ウザいって言ってんだよ!!!
叫ぶような大声に肩が震える。
楠木大雅
楠木大雅
お前さ、クズが嫌いなくせに
よく俺と一緒にいられるよな
椎名まこと
椎名まこと
先輩はクズじゃないです…
楠木大雅
楠木大雅
じゃあコレ見ても言えんのかよ

ぐしゃり。

散らばったノートの残骸を踏みつける先輩。

椎名まこと
椎名まこと
でも、先輩は…
こんなことしない

まるで心を踏みつけられたような
鈍い痛みが胸に広がる。

じわりと涙が滲む。

それに先輩は目を合わせてくれない。
楠木大雅
楠木大雅
どうしようもねーんだよ
俺はクズ、それ以上でも
それ以下でもねーんだよ
椎名まこと
椎名まこと
先輩、それは本心ですか?
私の目を見て下さい!

涙のせいでぼんやりと滲む視界。

頑なに目を合わせない先輩は私を突き飛ばした。
椎名まこと
椎名まこと
っわ!

思わず転びそうになった私の手を
とっさに先輩が掴む。

でも、その目はずっと下を向いていて​──。
楠木大雅
楠木大雅
恋人のフリは今日で終わり
これ以上傷つきたくないなら
二度と俺に関わるな

先輩は放心状態の私を残し、階段を降りていった。



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