第11話

クズと優しさ
5,343
2020/12/18 09:00


​───結局先輩におごらされた。

あれ!?これが放課後デート…?
思ってたのと違う。

カフェから出ると先輩は私の財布を
ひょいと奪って自分のポケットに仕舞った。

椎名まこと
椎名まこと
ちょっと!返して下さい!
普通にそれ、犯罪ですよ!?
楠木大雅
楠木大雅
いーだろ
お前は俺の彼女だし
お前のものは俺のもの
椎名まこと
椎名まこと
どこのガキ大将ですか
返して下さい!
頑張って稼いでるんですから
楠木大雅
楠木大雅
しーなって
バイトとかしてんの?
椎名まこと
椎名まこと
してますよ
生きていけないんで
楠木大雅
楠木大雅
そんなに貧乏なの?
椎名まこと
椎名まこと
生活にはなにかと
お金が必要ですからね!
稼がないと
楠木大雅
楠木大雅
親は?あ~……
母親いないんだっけ?
椎名まこと
椎名まこと
クズな父がいます
でもあんな人、父親だと
思ったことありません!
椎名まこと
椎名まこと
この前だってせっかく
給料日だったのに
久しぶりに帰ってきたと
思ったらお金だけ抜いて…

って、どうしてクズな先輩に
クズな父親の話なんかしてるんだろう。

先輩は興味なさそうに「ふーん?」と空返事。
椎名まこと
椎名まこと
(興味ないならきくなっ!)

心の中でつっこんでいると
先輩は私の手首を掴んでまた歩き出した。

楠木大雅
楠木大雅
やっぱ柄じゃねえところより
もっと楽しいとこ連れてってやるよ
椎名まこと
椎名まこと
まだどこか行くんですか?
楠木大雅
楠木大雅
俺の行きつけに
連れてってやる!

なんだか楽しそうな
先輩に帰るなんて言えなかった。


そして連れてこられたのは​────
椎名まこと
椎名まこと
ゲーセンですか?
楠木大雅
楠木大雅
そう
ここ俺の行きつけ

ギャンギャンと音を鳴らすコインゲーム機、
ぬいぐるみが並ぶUFOキャッチャー。

ビカビカなライトで目が眩しい。
椎名まこと
椎名まこと
いかにもって感じですね
でももっと危ない場所かと
思ってました
楠木大雅
楠木大雅
俺をなんだと思ってんの?
家帰りたくねーから
暇つぶしによく来るんだよ
椎名まこと
椎名まこと
え?……って
それ私の財布!!

先輩は悪びれもせず
千円をコインに変えてスロット台の前に座る。

その背中はまるでスロカスのヒモ彼氏だ。
楠木大雅
楠木大雅
しーなもやれ!
ほら、こうやって……
椎名まこと
椎名まこと
わ、私はべつの場所を
見てきます!!

クズ先輩から逃げるように
UFOキャッチャーコーナーへと足を運ぶ。

ピンク色のクマのぬいぐるみと目が合った。

顔には「すけべ」と書かれてあり
見たこともないキャラクターだけど
お尻の触り心地が良さそうだ。
椎名まこと
椎名まこと
か、可愛い…
楠木大雅
楠木大雅
何、それ欲しいの?
取ってやるよ
椎名まこと
椎名まこと
わっ!

スロットは飽きたのか
突然、先輩がひょいと横から現れて
勝手にUFOキャッチャーを始めた。
椎名まこと
椎名まこと
こういうのは1回では
取れないようにできてますよ
先輩にはムリです!
楠木大雅
楠木大雅
ま、見とけ
どれ欲しいの?
椎名まこと
椎名まこと
えっと…
すみっこで潰れてるやつ
楠木大雅
楠木大雅
は!?
なんであんな難しいやつ
選ぶんだよ
椎名まこと
椎名まこと
だってあの子
かわいそうだし
楠木大雅
楠木大雅
ぬいぐるみにまで
お節介なのかよ…
ったく、見てろよ!

先輩は真剣な顔つき。
カラフルなライトに照らされた横顔はやけに眩しい。

そしてその顔がぱっと笑顔になる。

楠木大雅
楠木大雅
しーな!!
ほら!取れたぞ!!

無邪気な笑顔を向けられ心臓がトクンとハネた。
楠木大雅
楠木大雅
おいもっと喜べよ
つまんねーの
椎名まこと
椎名まこと
あ、ありがとうございます!

先輩はまんざらでもなさそうに
私にぬいぐるみを渡して
またスロットコーナーへと戻っていった。

もっちり感触のぬいぐるみに喜ぶのも束の間……。
椎名まこと
椎名まこと
って結局これも私のお金だ!?

浮かれてた自分のバカ!
??
??
ねえ君、今ヒマ?
椎名まこと
椎名まこと
わっ!!

目の前に現れたのは
背の高いやんちゃそうな男。
??
??
オレさ最近失恋したんだー
だから付き合ってよ
椎名まこと
椎名まこと
ム、ムリです!
怖くなって逃げようとしたら腕を掴まれた。

椎名まこと
椎名まこと
は、離して下さい!!
楠木大雅
楠木大雅
なにしてんの?

またしても突然現れた先輩は
私をかばうように男の前に立ちふさがった。
??
??
あれ、カレシ?まじか
楠木大雅
楠木大雅
こいつ、俺の……
財布だから
椎名まこと
椎名まこと
は?違いますよ!
??
??
なにそれ、君大丈夫?
オレにしたら?
男がそういうと先輩はぐっと男の胸ぐらを掴み
耳元で何かを言った。
楠木大雅
楠木大雅
……………
??
??
あー……
か、帰るわ

半泣きになった男はとぼとぼと帰っていく。


椎名まこと
椎名まこと
何言ったんですか?
楠木大雅
楠木大雅
もう二度と好きな女と
両想いになれない呪いを
かけるって脅した
椎名まこと
椎名まこと
なんですかそれ
楠木大雅
楠木大雅
あーあ…
シラケたしもう帰るぞ

先輩はまた強引に私の腕を引っ張って前を歩く。


そして​───
なぜかしっかり家の前まで送ってくれた。
楠木大雅
楠木大雅
これ返す

そう言うと先輩は
財布を押し付けて足早に帰って行く。

椎名まこと
椎名まこと
今日の先輩、変なの……
って、あれ?

散々使ったはずの財布の中身は
全く減っていなかった。

むしろカフェの分まで返ってきている。

大雅
しーなってさ、俺がおごるとか言ったら
逆に気遣って楽しめないタイプだろ?
ざまあみろ!

そう書かれたメモができてきて
思わず胸がぎゅっとなる。
椎名まこと
椎名まこと
く、クズのくせに…!


クズな先輩、楠木先輩。

本当はすごく優しい人なのかもしれない​​───。



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