───結局先輩に奢らされた。
あれ!?これが放課後デート…?
思ってたのと違う。
カフェから出ると先輩は私の財布を
ひょいと奪って自分のポケットに仕舞った。
って、どうしてクズな先輩に
クズな父親の話なんかしてるんだろう。
先輩は興味なさそうに「ふーん?」と空返事。
心の中でつっこんでいると
先輩は私の手首を掴んでまた歩き出した。
なんだか楽しそうな
先輩に帰るなんて言えなかった。
そして連れてこられたのは────
ギャンギャンと音を鳴らすコインゲーム機、
ぬいぐるみが並ぶUFOキャッチャー。
ビカビカなライトで目が眩しい。
先輩は悪びれもせず
千円をコインに変えてスロット台の前に座る。
その背中はまるでスロカスのヒモ彼氏だ。
クズ先輩から逃げるように
UFOキャッチャーコーナーへと足を運ぶ。
ピンク色のクマのぬいぐるみと目が合った。
顔には「すけべ」と書かれてあり
見たこともないキャラクターだけど
お尻の触り心地が良さそうだ。
スロットは飽きたのか
突然、先輩がひょいと横から現れて
勝手にUFOキャッチャーを始めた。
先輩は真剣な顔つき。
カラフルなライトに照らされた横顔はやけに眩しい。
そしてその顔がぱっと笑顔になる。
無邪気な笑顔を向けられ心臓がトクンとハネた。
先輩はまんざらでもなさそうに
私にぬいぐるみを渡して
またスロットコーナーへと戻っていった。
もっちり感触のぬいぐるみに喜ぶのも束の間……。
浮かれてた自分のバカ!
目の前に現れたのは
背の高いやんちゃそうな男。
怖くなって逃げようとしたら腕を掴まれた。
またしても突然現れた先輩は
私をかばうように男の前に立ちふさがった。
男がそういうと先輩はぐっと男の胸ぐらを掴み
耳元で何かを言った。
半泣きになった男はとぼとぼと帰っていく。
先輩はまた強引に私の腕を引っ張って前を歩く。
そして───
なぜかしっかり家の前まで送ってくれた。
そう言うと先輩は
財布を押し付けて足早に帰って行く。
散々使ったはずの財布の中身は
全く減っていなかった。
むしろカフェの分まで返ってきている。
そう書かれたメモができてきて
思わず胸がぎゅっとなる。
クズな先輩、楠木先輩。
本当はすごく優しい人なのかもしれない───。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。