第20話

不名誉なウワサ
3,888
2021/02/19 11:09


​───週明けの月曜日。


先輩から「大丈夫」ってLIMEはきてたけど
本当に大丈夫なのかな?

上履きに履き替えながら
またお節介なことを考えていると
やけに突き刺さるような視線を感じる。

椎名まこと
椎名まこと
ん?なんだろ?
女子生徒たちの不躾な視線。

それをかき分けるようにやってきたのは
ほのかだった。

こちらを睨む大きな目は涙で潤んでいて……。
椎名まこと
椎名まこと
おはよう
ど、どうしたの?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
どうしたって
まことは知ってるんじゃないの?
椎名まこと
椎名まこと
え?
瀬尾ほのか
瀬尾ほのか
とぼけるとかホント性格悪いね
付き合ってるフリなんて
嘘だったんでしょ?
クズはクズ同士付き合ってなよ

キッと私を睨みつけて
そのままほのかは足早に去っていった。
椎名まこと
椎名まこと
(な、なんのこと!?)

頭の中には「?」しか浮かばない。
何かとんでもない誤解をされている気がする。

椎名まこと
椎名まこと
とにかく、ちゃんと
ほのかと話をしなきゃ!

そう思った瞬間、1時間目のチャイムが鳴った。





​───そして、あっという間に昼休み。

なぜか今日はすべてが上手くいかない。

ほのかは私を無視して話を聞いてくれないし
クラスのみんなはコソコソとウワサ話をしている。

女子
ねえ聞いた?3股だってさ
女子
え、サイッテー

3股!?
とんだクズ野郎がいるみたい。
女子
しかも数学の田中先生と
不倫してるらしいよ
女子
田中先生って最近
結婚したんじゃなかったっけ?

ん?田中先生って男だよね?
ってことは今噂されてるのって、女の子?
女子
流石にデマじゃないの?
女子
全部ほのかが言ってたし
私はまことがクズだと思うよ
椎名まこと
椎名まこと
え!?私!?

思ったより大きな声が出てしまって
周りがざわついた。

私がクズ…?
ど、どうなってるの!?

嫌な冷や汗が背中を伝った時
先輩からまたいつもの呼び出しがきた。

***
大雅
今すぐ来い
***
突然の呼び出しに
今回ばかりは少し救われたような気持ち。

私は空気の悪い教室から逃げ出すように
裏階段へ向かった。
楠木大雅
楠木大雅
遅い
椎名まこと
椎名まこと
もう体調は大丈夫なんですか?
楠木大雅
楠木大雅
うん

そう一言だけ言って
先輩はなんだかぎこちなく目をそらした。
椎名まこと
椎名まこと
えっと、どうして
呼び出したんですか?
楠木大雅
楠木大雅
そ!!それはっ…!
いいだろ別に、彼女なんだから!
椎名まこと
椎名まこと
特に用はないんですか?

そう言うと慌てたように先輩は私の腕を掴んだ。
椎名まこと
椎名まこと
(っわ!だめだ…これ以上先輩といたらまた「好き」が溢れちゃう)

でも先輩の手を振り払うことなんてできない。
楠木大雅
楠木大雅
こ、この前はありがとな
その……色々助かった
椎名まこと
椎名まこと
え!?先輩がお礼を言うなんて
今日は雪が降るんじゃ!
楠木大雅
楠木大雅
俺だってそんくらい言えるっての!
それよりしないの?更生計画ってやつ
椎名まこと
椎名まこと
あ…あれは、
私が先走っちゃっただけなので
先輩が嫌ならやらなくても
楠木大雅
楠木大雅
はあ!?
言い出したのはしーなだろ!
椎名まこと
椎名まこと
で、でも!

先輩の「クズ」にはちゃんと理由があった。

女性を近づけないように、傷つかないように
ただ自分を守っていただけ。

だから無理に矯正するなんて私のエゴだ。
楠木大雅
楠木大雅
俺、いっこだけ
試したいんだ
椎名まこと
椎名まこと
試したい?
楠木大雅
楠木大雅
俺の首に触れ!
椎名まこと
椎名まこと
え!?
でも触ったら発作が!
楠木大雅
楠木大雅
いいから!早く!

まるで何かを確信しているように
掴んだままの私の腕をぐっと引いた。

近い距離に頬が熱くなる。
椎名まこと
椎名まこと
本当に
大丈夫なんですか?
楠木大雅
楠木大雅
早くしろって

言われるがまま
はだけた制服の襟元へ手を伸ばした。

やけになめらかな肌と
それなのに男の人っぽい首筋に
思わずごくりと息を飲む。

椎名まこと
椎名まこと
じゃあ!
さ、触りますよ!
するり。

少し出っ張った喉仏から鎖骨へ……
なぞるように指先を滑らせる。
楠木大雅
楠木大雅
っ……!

少しだけ先輩は息を止めて
私が手を離すとふぅと息を吐いた。
楠木大雅
楠木大雅
やっぱりな!
しーななら大丈夫だ!!

ぱっと明るくなる表情にどきりと心臓がハネた。
無邪気な笑顔をこれ以上見ていたら
私はどうにかなってしまいそう。

……な、何か別の話題を!!
椎名まこと
椎名まこと
そういえば!この前
ほのかとここにいましたよね?
楠木大雅
楠木大雅
え?ああ~あれか
実はまた告白されてさ
椎名まこと
椎名まこと
えっ!
楠木大雅
楠木大雅
でも丁寧に断ったんだ……
そうだ!俺を褒めろ!!
クズ発言はしてねーから!
椎名まこと
椎名まこと
そうだったんですね

思い切りしっぽを振る子犬のように「褒めて」
とニコニコしている。

うっ……可愛い。

正直今の私には毒だ。
楠木大雅
楠木大雅
なんだよ、褒めてくれないの?
俺、お前以外と付き合う気はねえって
ちゃんと言ったのに
椎名まこと
椎名まこと
ええ!?

……そうか!

だからほのかは今朝あんなことを言ったんだ。

まるでパズルのピースがはまるように
今日の出来事に合点がいった。

楠木大雅
楠木大雅
どうかした?
椎名まこと
椎名まこと
な、なんでもないです!

とにかく、変な噂は何とかしなきゃ。


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