第16話
風邪のときはいつも side:楠木
風邪のときはいつも、悪夢ばかりみる。
でも今回は違った。
温かい、太陽みたいな夢だった。
ふと腕の中に小さな抵抗を感じて目を覚ますと、
しーなが真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。
どうやら保健室らしい。
同じベッドに横になっていて
俺はしーなを抱きしめるように腕を回している……。
つまり───
もごもごと真っ赤な顔のまましーなは俺に抗議する。
なんだかいつものしーなじゃない。
可愛い。
ぼーっとする頭のせいか
なんだか無性に甘えたくなってくる。
さらにぎゅっとしーなを腕の中に閉じ込めると
弱い力で俺の胸を押してきた。
そんな弱い力じゃ離れてやらねーし。
そう耳元で囁くと
ひゃあと小さな悲鳴が聞こえた。
嬉しくて腕の力が緩む。
するとしーながするりと離れていった。
なんだか急に寂しくなった。
ずっと抱きしめていられたらいいのに。
するりと素直な言葉がこぼれた。
熱のせいで頭がボーッとする。
しーなはむっとしながらも俺に肩を貸してくれた。
ちんちくりんで、支えるのもやっとのくせに。
そうやってわざとのしかかってみる。
女なんて絶対好きになるはずはない。
好きになっても、傷つけられて終わりだ───。
だから今までは好意が芽生える前に摘み取ってきた。
でもしーなだけは……無理かも。
うだうだと考えている間に家についていた。
もちろん父親の車はない。
誰もいない家に急に寂しさがこみ上げてきた。
心配そうな声に
俺はわざとおちゃらけて答える。
くるりと背を向けるしーな。
その背中に少し手が伸びそうになった。
そんな心の声は届くはずない。
暗い家に入って深くため息を吐いたその時、
ガチャ。
突然玄関のドアが開いた。
俺は無意識にしーなを抱きしめていた。