第13話

慣れる、触れる、好きになる
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2021/01/05 03:47



ふに…ふにふにふに。

突然、先輩が私の唇を興味深そうにいじりはじめた。
椎名まこと
椎名まこと
わっ!!
な、なにするんですか!

思わず後ずさると、先輩も飛び退いた。
楠木大雅
楠木大雅
っ!!
いや、つい……!
わ、悪い
楠木大雅
楠木大雅
なにやってんだ俺っ…はず!

なぜか先輩は耳まで赤くなっていて
困惑した様子だ。
椎名まこと
椎名まこと
恥ずかしいのはこっちですよ!
楠木大雅
楠木大雅
お前が無防備なのが悪いんだよ
椎名まこと
椎名まこと
なんですかその暴論!
というか先輩、女子に触れるんですね
楠木大雅
楠木大雅
触るくらい余裕だし
椎名まこと
椎名まこと
でも、初めて会ったときは
すごく取り乱してたじゃないですか

そう、初めて会った日のこと。

私は怒りにまかせ、先輩の胸ぐらに掴みかかった。

そして突然発作を起こした先輩は
そのまま気絶した。
楠木大雅
楠木大雅
まぁあれには深いワケがあんだよ
いつか教えてやる
椎名まこと
椎名まこと
そう、ですか

まだ、教えてくれないんだ。


この雰囲気、きっと私のお節介で
踏み込んじゃいけないところだ。
椎名まこと
椎名まこと
じゃあさっそく
本題にいきましょう!!
楠木大雅
楠木大雅
本題?
椎名まこと
椎名まこと
今日呼び出したのは
これを実行するためです!

私は小さなメモ帳を取り出して
先輩の目の前に掲げた。
楠木大雅
楠木大雅
あー、それね
更生計画ってやつ?
椎名まこと
椎名まこと
これでもちゃんと
考えてきたんですからね!
楠木大雅
楠木大雅
ふ~ん?
で、何すればいいわけ?
椎名まこと
椎名まこと
更生計画は大きく3段階です
まずは女子に慣れることからです
楠木大雅
楠木大雅
慣れる?
椎名まこと
椎名まこと
はい!

先輩はメモ帳を覗き込むように身体を寄せた。

ぐっと近づくキョリ、爽やかな柔軟剤の香りに
少しだけ心拍数が上がる。
椎名まこと
椎名まこと
ま、まあこれはもう
あらかた慣れたと思うので
必要ないですね、終了です!

「慣れる」の項目にチェックを入れると
横から先輩が不満そうに文句を言う。
楠木大雅
楠木大雅
待て!まだ慣れてねえ
椎名まこと
椎名まこと
え?

先輩の透き通った瞳が私を見つめる。

楠木大雅
楠木大雅
慣れてねえ、というかお前だと
慣れるどころか… どんどん変になって……

声がだんだん小さくなっていって
先輩は何かに気づいたように目をそらした。
楠木大雅
楠木大雅
やっぱなんでもねえ!!


え、何? 今の!

なんだか空気がくすぐったい。
椎名まこと
椎名まこと
と、とにかく!
慣れる、の次は触れるです!
これもさっき女子に触れるって
わかったので終了で……
楠木大雅
楠木大雅
いや、やる
椎名まこと
椎名まこと
はい?
楠木大雅
楠木大雅
いいから練習させろよ

なんだか真剣な顔の先輩に気圧けおされた私は
静かにうなずいた。
楠木大雅
楠木大雅
俺から触るのは大丈夫なんだ
でも女から触られんのは……
まだ、ちょっと怖い
椎名まこと
椎名まこと
そうなんですね
じゃあ!
楠木大雅
楠木大雅
ちょっと待て
首から上は絶対に触るな!
まずは手だ手!

そう言って先輩は手のひらを差し出す。

椎名まこと
椎名まこと
えっと、じゃあいきますね
楠木大雅
楠木大雅
早くしろ……

なぜか妙な緊張感が襲って
ドキドキと鼓動が高まっていく。

すらりとした長い指が少しだけ骨ばっていて
ちゃんと男の人の手だ。

ぎゅっと握ると
やけに指先が冷たくて少しだけ震えていた。
椎名まこと
椎名まこと
し、知ってますか!!
手の冷たい人は心が
あったかいらしいですよ!

ドキドキをごまかすようにベタな会話を繰り出す。

でも先輩は全く話を聞いていないのか
握った手をじっと見つめて頬を赤く染めている。

椎名まこと
椎名まこと
先輩、顔が赤いですよ
やっぱりキツイなら
離しましょうか
楠木大雅
楠木大雅
あ、赤くねーし!
それに離したら
練習にならないだろ!
椎名まこと
椎名まこと
そ、そうですよね……


…………



って、これいつ離せばいいの?!

なんだか手汗がにじんできた気がするし、
どうしよう!!
椎名まこと
椎名まこと
……
楠木大雅
楠木大雅
……

沈黙が耐えられない……!
そうだ、何か話題をっ​───。
椎名まこと
椎名まこと
そういえば更生計画は
これだけじゃないんですよ!
楠木大雅
楠木大雅
まだあるのか?
椎名まこと
椎名まこと
慣れる、触れる、ときたら
最後は「好きになる」です!
楠木大雅
楠木大雅
は!?

先輩は突然手をばっと引っ込めて
真っ赤な顔で後ずさった。



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