ふに…ふにふにふに。
突然、先輩が私の唇を興味深そうに弄りはじめた。
思わず後ずさると、先輩も飛び退いた。
なぜか先輩は耳まで赤くなっていて
困惑した様子だ。
そう、初めて会った日のこと。
私は怒りにまかせ、先輩の胸ぐらに掴みかかった。
そして突然発作を起こした先輩は
そのまま気絶した。
まだ、教えてくれないんだ。
この雰囲気、きっと私のお節介で
踏み込んじゃいけないところだ。
私は小さなメモ帳を取り出して
先輩の目の前に掲げた。
先輩はメモ帳を覗き込むように身体を寄せた。
ぐっと近づくキョリ、爽やかな柔軟剤の香りに
少しだけ心拍数が上がる。
「慣れる」の項目にチェックを入れると
横から先輩が不満そうに文句を言う。
先輩の透き通った瞳が私を見つめる。
声がだんだん小さくなっていって
先輩は何かに気づいたように目をそらした。
え、何? 今の!
なんだか空気がくすぐったい。
なんだか真剣な顔の先輩に気圧された私は
静かにうなずいた。
そう言って先輩は手のひらを差し出す。
なぜか妙な緊張感が襲って
ドキドキと鼓動が高まっていく。
すらりとした長い指が少しだけ骨ばっていて
ちゃんと男の人の手だ。
ぎゅっと握ると
やけに指先が冷たくて少しだけ震えていた。
ドキドキをごまかすようにベタな会話を繰り出す。
でも先輩は全く話を聞いていないのか
握った手をじっと見つめて頬を赤く染めている。
…………
って、これいつ離せばいいの?!
なんだか手汗が滲んできた気がするし、
どうしよう!!
沈黙が耐えられない……!
そうだ、何か話題をっ───。
先輩は突然手をばっと引っ込めて
真っ赤な顔で後ずさった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!