第19話
クズなりの心 side:楠木
遠ざかっていくしーなの足音を聞きながら
俺はそっと目を開けた。
触れられた頬が熱くて、寝返りをうつ。
本当は眠ってなんかいない。
ただ、あいつが変に気を遣わないように
寝たフリをしてただけだ。
それなのに……勝手に触れてきやがって!
しーなから触れられても嫌悪感はない。
他の女なら吐き気しかしねーのに。
なんでだ……?
やけに熱っぽい体を引きずって
一階のキッチンに水を取りにいく。
冷蔵庫を開けると、そこにはタッパーに入れられた
お粥と、手作りの卵焼きが置いてあった。
思わず吹き出して器の上のメモを手に取る。
ちいさな丸っこい文字にじわりと心が暖かくなって
無性に泣きたくなった。
しーな……。
ぽつりとこぼれた言葉に思わず口を塞ぐ。
は!?俺、今好きって言ったか!?
あんな、ちんちくりんのしーなを!?
いや、ちんちくりんなところが可愛いんだけど……。
今まで無意識に自分の気持ちを
見て見ぬ振りしてきた。
改めて「好き」だと自覚した途端、
一気に体温が上がっていく。
正直言って恥ずかしくて死にそうだ!
俺はふらふらしながらそのまま自室に戻った。
ばふっ!
ベッドにうつ伏せに寝転がって
バタバタと手足を動かす。
女を好きになるなんてはじめてのこと。
何をどうすればいいのかわかんねー。
この俺が嫌われるかどうかで悩む日が来るなんて。
クズな発言とか嫌われる方法なら
いくらでも思い浮かぶってのに!
一旦考えるのをやめて俺はそのまま目を閉じた。
────翌日。
ピピピ……
体温計は残念なことに36度の平熱を知らせる。
好きだと自覚してから頭の中はしーなのことばかり。
俺は今、完全にしーなへの思いを
持て余している……!!
独り言を呟きながら歩いていると
コンビニ前でダラしなくアロハシャツを着た髭面の
おっさんに声をかけられた。
こいつ、見るからにクズだ。
「いつか返す」ほど信用できない言葉はない。
俺が渋っていると、おっさんは世間話を始めた。
半分上の空で聞いていると
スマホがポコンと音を立てる。
スマホ画面には「しーな」の文字。
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相変わらずのお節介な文面。
でも、それがすっげえ嬉しい。
絶対返さないやつのセリフを吐いて
おっさんは嬉しそうにコンビニに入っていった。
勝手に頬が緩む。
さて、なんて返そうか……?
悩みに悩んで返事を送ったのは2時間あとの話──。
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