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第1話

確信犯 あべさく 完結
884
2021/04/10 14:19
A-00:00
わざと門限を破る。

いくら頑張っても周りは凄い人ばかりで
俺は自分に自信が持てないでいる

せめて自分は必要とされている事を
確かめたい感じたい

そんな思いから考えついてしまった











A-15:00
まず、休みの日の前日である事。


「ご飯を食べてくる」

とだけ伝える。
君は少し悲しそうな顔をするが
すぐにいつもの明るい笑顔で

『ちゃんと帰ってきてね』

と言って、抱きついてくる
俺はうんとも言わず
無言のまま、その小さな背中に腕を回す


許可をしてしまったものの
やっぱり行ってほしくないのか、
ぐりぐりと俺の首元に頭を擦り付ける

フワフワの髪の毛がくすぐったい気もするが
この甘えが俺の心を暖かく満たしてゆく
ああ、これで満足できたなら良いのにな
そんなこと思いながらその髪を撫でた




A-15:28

「ほら、もうすぐ休憩終わるから戻るよ」

『はーい、、』

むっとして、不服そうに返事をする
しかも俺から離れる時、
君がわざと声に出して

『もっと、、いちゃいちゃしてたかった、』

なんてストレートな事を
言ってくるから照れる
今にでも引き止めたくなってしまうが、

夜になれば
もっと“甘くて濃いの”が待っている
それを楽しみに今、我慢する。




S-15:00→15:29

「ご飯を食べてくる」

せっかく、休みの前の日から
ゆっくり2人で過ごせると思ったのに、と
残念に思う。

しかし、束縛はしたくないと決めているから

『ちゃんと帰ってきてね』

と伝え、華奢なその胸へ飛び込む
どう頑張っても
嫌な顔をしてしまうのを隠すためだ

いじらしく頭をぐりぐりと押し付けると
彼はそれに応えるように
優しく撫でてくれた
ああ、幸せだ、、
胸がいっぱいになる。


少し時間が経つと、
休憩が終わるからと声をかけられ
半ば強引に引き剥がされた

わざと聞こえる声で不満を言ってみる。
横目で彼の方を見ると
顔を赤くして恥ずかしがっていたので
それに俺は満足して仕事へ向かった







A-21:00
大好きな焼き鳥を食べつつ、
仕事の話やらして久しぶりの会食を楽しむ

[一緒にご飯食べるの
 半年ぶりとかだよね]

以前までは月に2回とか
開いていた焼き鳥会も
同棲し始めてからは無くなっていた

「そうだね、久しぶりだし
 今日は付き合ってもらうからね」

携帯を確認してみると
門限まであと2時間はある

[うわっ、またなんか企んでるな
 お願いだから巻き込まないでよね]

なんか不穏な空気でも感じたのだろうか
疑ってくる

「何も企んでないよ
 とりあえず、焼き鳥冷めちゃうから
 食べないと」

なんて誤魔化す

[怪しいな〜
 まぁ、けど今は焼き鳥だな]

気にはなりつつも、
適当に流してくれるので助かる
トイレに行くフリをして会計を済ませた




S-21:00
家に帰ってご飯タイム。
1人で食べるご飯は寂しくて、、

けど見たいアニメも溜まってたし、
久々の1人を楽しもうと思って
テレビを付けた





S-22:00
何本かアニメを見たけど、
なんか集中出来なくてテレビを消す

📱『今、どこにいるのー?』
📱『何食べてるのー??』

連絡を入れてみた
うざく思われないか心配したけど、
優しい彼の事だから許してくれるだろう



A-22:00
携帯の画面だけを開いて
LINEの着信を見る

📱『今、どこにいるのー?』
📱『何食べてるのー??』

通知が溜まっているのを見て
残っていたお酒を煽る

もちろん、返信はしない
携帯を伏せてテーブルに置く

おそらく、11時を超えると来るだろう
通知の山を期待する。


A-22:35
半を過ぎた頃、
俺は店を出て家へ向かう
30分もあれば着く近さ。
途中にある公園のベンチに腰をかける




S-23:00
11時を回っても帰ってこない
それどころか、LINEの既読すら付かない

📱『ねぇ!大丈夫??』
📱『どこにいるの??』

いくらメッセージを送っても変わりはなく
電話をかけてみても繋がらない

どんどん、不安が募ってゆく。


A-23:10
空なんかボーと見ていると
電話がかかってくる
通知もいつの間にか溜まっていた

そろそろかなと、ベンチを立ち
再び家へ歩を進める



S-23:30
普段から返信が遅い方とはいえ、
これはおかしい。
彼が門限を破るなんておかしすぎる
あれこれ考えていると
1つの悪い結末に思い当たってしまった

‘どこかで襲われているのではないか‘

ありえない仮説だなと思うが、
中性的な見た目と
最近の女性らしいしぐさを考えると
ありえないとは言い切れなくて、、、、

そうなってくると
いてもたってもいられなくなり
玄関へ走る



S-23:30
俺は、扉の前にいた。
お酒を飲んでいたので
アルコールの回っている体に
当たる夜風が気持ちいい

少し、待っていると
扉の向こうからドタドタと音が聞こえる



S-23:40
ドアを開けた先に彼がいた
家に帰っていてくれた安心感と
心配からくる怒りがこみ上げてくる


A-23:40
扉を開けた君は俺を見て
一瞬、安堵の表情をしたが
僕を見たその目は深い闇が渦巻いていた

これを待ちわびていた
無意識に喉が鳴る

彼は大きく息を吐いた後、口を開く



S-23:50
『どんだけ待ってたと思ってるの?』

どんだけ心配して
どんだけ不安になって、、、
そんな俺の気持ちなんて
微塵もわかっていないような君は
ただ黙ったままだ。



S-24:00
そっと君の頬に手を添わすと、
ビクッと身を震わせる
少し怯えたようなその表情は
お酒で火照っている顔をより濡らす
涙など流すから舌で拭って
そのまま溺れていった


A-24:00
あっという間に体は血の赤に滲んでいく
痛い。
その感覚が嬉しい。
MとかSとかの話では無いのだ
彼が僕を欲してくれている

その感覚を求めているのだ


S-24:00
普段ならこんな傷つけることなんてしない
けど、この胸にある怒りを言い訳に
自分の欲のままにする

赤く滲むその背中を見下ろすと
なんとも言えない優越感を覚える












A-15:00
重い体を起こす
腕や脚など見ると、赤い跡が無数にあった
枕を見れば血が付いていて、
首を触るとアーチ状のかさぶたが出来ている

相変わらず、起きるのが遅い君は
隣でスゥースゥーと寝息を立てていた

きっと、目を覚ました君は俺の体を見て
いの先に謝るだろう
悪いのは俺の方なのに。

必死に謝る君が想像出来すぎて
笑ってしまう

まだ、2人でいられる時間は沢山ある
布団に入り直し、
温かな優しさを感じながら目を閉じた

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