A-00:00
わざと門限を破る。
いくら頑張っても周りは凄い人ばかりで
俺は自分に自信が持てないでいる
せめて自分は必要とされている事を
確かめたい感じたい
そんな思いから考えついてしまった
A-15:00
まず、休みの日の前日である事。
「ご飯を食べてくる」
とだけ伝える。
君は少し悲しそうな顔をするが
すぐにいつもの明るい笑顔で
『ちゃんと帰ってきてね』
と言って、抱きついてくる
俺はうんとも言わず
無言のまま、その小さな背中に腕を回す
許可をしてしまったものの
やっぱり行ってほしくないのか、
ぐりぐりと俺の首元に頭を擦り付ける
フワフワの髪の毛がくすぐったい気もするが
この甘えが俺の心を暖かく満たしてゆく
ああ、これで満足できたなら良いのにな
そんなこと思いながらその髪を撫でた
A-15:28
「ほら、もうすぐ休憩終わるから戻るよ」
『はーい、、』
むっとして、不服そうに返事をする
しかも俺から離れる時、
君がわざと声に出して
『もっと、、いちゃいちゃしてたかった、』
なんてストレートな事を
言ってくるから照れる
今にでも引き止めたくなってしまうが、
夜になれば
もっと“甘くて濃いの”が待っている
それを楽しみに今、我慢する。
S-15:00→15:29
「ご飯を食べてくる」
せっかく、休みの前の日から
ゆっくり2人で過ごせると思ったのに、と
残念に思う。
しかし、束縛はしたくないと決めているから
『ちゃんと帰ってきてね』
と伝え、華奢なその胸へ飛び込む
どう頑張っても
嫌な顔をしてしまうのを隠すためだ
いじらしく頭をぐりぐりと押し付けると
彼はそれに応えるように
優しく撫でてくれた
ああ、幸せだ、、
胸がいっぱいになる。
少し時間が経つと、
休憩が終わるからと声をかけられ
半ば強引に引き剥がされた
わざと聞こえる声で不満を言ってみる。
横目で彼の方を見ると
顔を赤くして恥ずかしがっていたので
それに俺は満足して仕事へ向かった
A-21:00
大好きな焼き鳥を食べつつ、
仕事の話やらして久しぶりの会食を楽しむ
[一緒にご飯食べるの
半年ぶりとかだよね]
以前までは月に2回とか
開いていた焼き鳥会も
同棲し始めてからは無くなっていた
「そうだね、久しぶりだし
今日は付き合ってもらうからね」
携帯を確認してみると
門限まであと2時間はある
[うわっ、またなんか企んでるな
お願いだから巻き込まないでよね]
なんか不穏な空気でも感じたのだろうか
疑ってくる
「何も企んでないよ
とりあえず、焼き鳥冷めちゃうから
食べないと」
なんて誤魔化す
[怪しいな〜
まぁ、けど今は焼き鳥だな]
気にはなりつつも、
適当に流してくれるので助かる
トイレに行くフリをして会計を済ませた
S-21:00
家に帰ってご飯タイム。
1人で食べるご飯は寂しくて、、
けど見たいアニメも溜まってたし、
久々の1人を楽しもうと思って
テレビを付けた
S-22:00
何本かアニメを見たけど、
なんか集中出来なくてテレビを消す
📱『今、どこにいるのー?』
📱『何食べてるのー??』
連絡を入れてみた
うざく思われないか心配したけど、
優しい彼の事だから許してくれるだろう
A-22:00
携帯の画面だけを開いて
LINEの着信を見る
📱『今、どこにいるのー?』
📱『何食べてるのー??』
通知が溜まっているのを見て
残っていたお酒を煽る
もちろん、返信はしない
携帯を伏せてテーブルに置く
おそらく、11時を超えると来るだろう
通知の山を期待する。
A-22:35
半を過ぎた頃、
俺は店を出て家へ向かう
30分もあれば着く近さ。
途中にある公園のベンチに腰をかける
S-23:00
11時を回っても帰ってこない
それどころか、LINEの既読すら付かない
📱『ねぇ!大丈夫??』
📱『どこにいるの??』
いくらメッセージを送っても変わりはなく
電話をかけてみても繋がらない
どんどん、不安が募ってゆく。
A-23:10
空なんかボーと見ていると
電話がかかってくる
通知もいつの間にか溜まっていた
そろそろかなと、ベンチを立ち
再び家へ歩を進める
S-23:30
普段から返信が遅い方とはいえ、
これはおかしい。
彼が門限を破るなんておかしすぎる
あれこれ考えていると
1つの悪い結末に思い当たってしまった
‘どこかで襲われているのではないか‘
ありえない仮説だなと思うが、
中性的な見た目と
最近の女性らしいしぐさを考えると
ありえないとは言い切れなくて、、、、
そうなってくると
いてもたってもいられなくなり
玄関へ走る
S-23:30
俺は、扉の前にいた。
お酒を飲んでいたので
アルコールの回っている体に
当たる夜風が気持ちいい
少し、待っていると
扉の向こうからドタドタと音が聞こえる
S-23:40
ドアを開けた先に彼がいた
家に帰っていてくれた安心感と
心配からくる怒りがこみ上げてくる
A-23:40
扉を開けた君は俺を見て
一瞬、安堵の表情をしたが
僕を見たその目は深い闇が渦巻いていた
これを待ちわびていた
無意識に喉が鳴る
彼は大きく息を吐いた後、口を開く
S-23:50
『どんだけ待ってたと思ってるの?』
どんだけ心配して
どんだけ不安になって、、、
そんな俺の気持ちなんて
微塵もわかっていないような君は
ただ黙ったままだ。
S-24:00
そっと君の頬に手を添わすと、
ビクッと身を震わせる
少し怯えたようなその表情は
お酒で火照っている顔をより濡らす
涙など流すから舌で拭って
そのまま溺れていった
A-24:00
あっという間に体は血の赤に滲んでいく
痛い。
その感覚が嬉しい。
MとかSとかの話では無いのだ
彼が僕を欲してくれている
その感覚を求めているのだ
S-24:00
普段ならこんな傷つけることなんてしない
けど、この胸にある怒りを言い訳に
自分の欲のままにする
赤く滲むその背中を見下ろすと
なんとも言えない優越感を覚える
A-15:00
重い体を起こす
腕や脚など見ると、赤い跡が無数にあった
枕を見れば血が付いていて、
首を触るとアーチ状のかさぶたが出来ている
相変わらず、起きるのが遅い君は
隣でスゥースゥーと寝息を立てていた
きっと、目を覚ました君は俺の体を見て
いの先に謝るだろう
悪いのは俺の方なのに。
必死に謝る君が想像出来すぎて
笑ってしまう
まだ、2人でいられる時間は沢山ある
布団に入り直し、
温かな優しさを感じながら目を閉じた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。