第20話

<第二章>-3
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2018/11/22 05:42
そうして、南側校舎の一階にある、写真部と紙が貼られた部屋の前まで二人を連れて来た日向子が扉をノックして、「失礼します」と開けた瞬間──、
男子生徒
男子生徒
いいか諸君! 『春』と言えば、ヌードだ!
中から突然、叫び声が聞こえてきた。
ビクッと固まった日向子の後ろで、驚いて目を瞠るテレサと、警戒モードのアレク。
声の主は、今朝、二人を見ていた眼鏡をかけた男子生徒で、天に向かって両手を広げ、熱く語り続けていた。
男子生徒
男子生徒
太古、母なる海から生命は生まれた! 女性は命の象徴である! 諸君も命のきらめきを感じるべきではないだろうか!
両脇には多田と伊集院が座っていて、客人に気付いてギョッとする。
伊集院薫
伊集院薫
ピン先輩!?
伊集院が慌てて止めようとするが、自分の世界に入ってしまった彼の耳には届かない。
ピン先輩
ピン先輩
女体とは芸術である! こよなく愛でて何が悪い!!
窓外に広がる青空へと視線を移し、滔々と声を張り上げていた。
伊集院は汗を浮かべて固まり、多田は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
やがて、ばつが悪そうに日向子が咳払いをして、眼鏡男子はハッと振り返る。
長谷川日向子
長谷川日向子
転校生の二人を、見学に連れてきたんだけど……
気まずい沈黙が三秒ほど流れ、きょとんとした顔のテレサに、アレクが無情にも告げた。
アレク
アレク
次、行きましょう
同時に、必死に止める伊集院の悲鳴が、廊下にまで響き渡った。
伊集院薫
伊集院薫
待って待って待って!!
実は、写真部は部員が少ないことが悩みの種だった。
だが、部長の杉本は、写真コンクールに応募して入賞作が出れば、評判になって、部員も増えるだろうと楽観的に考えていた。それで、次のコンクールの『春』というテーマに向けて、独自の熱い思いを語っていたのだ。
とは言え、彼がいつでもどこでも、大抵よからぬことを考えているのも、また事実である。将来の夢が『ヌード写真家』というだけのことはある。
テレサはそのまま立ち去るのも失礼な気がして、「アレク」と目で訴える。
そういう目をされるとアレクも強行できず、ため息をついてその場に留まった。
すると、眼鏡男子は何事もなかったかのように澄まし顔をして、渋い声で自己紹介を始めた。
杉本一
杉本一
ナイストゥミーチュー。写真部部長3年の、杉本一です。以後、お見知りおきを
伊集院薫
伊集院薫
通称、ピン先輩です
伊集院が横から補足すると、多田もこくっと頷いてテレサ達を見た。
テレサはニコッと頷き返して、礼儀正しくお辞儀をする。
テレサ
テレサ
初めまして、ピン先輩さん! テレサ・ワーグナーです
その横で、不信感を抱いたままのアレクが、低い声で名乗った。
アレク
アレク
アレクサンドラ・マグリットです
それから日向子に促され、ようやくテレサとアレクは室内へ足を踏み入れた。