第4話

<第一章>-2
408
2018/10/26 05:00
──十五時間後。
それなのに、テレサは東京の街を、トボトボと一人で歩いていた。
羽田空港に到着後、リムジンバスに乗って東京駅まで来て、地下鉄に乗り換える時に、人波にのまれてアレクとはぐれてしまったのだ。
手元には小さなポシェットと、今使っている切符しかない。
しかも目的地は『銀座』と聞いていたが、車内の行き先表示板に『銀座』の文字が見当たらない。残念ながら間違った電車に乗っていたのである。
仕方なく次の駅で降りてみると、駅構内に近郊の地図が掲示されていて、そこにようやく『銀座』という文字を見つけた。幸い、歩いて行けそうな距離だ。
ならば、と思い、覚悟を決めて階段を上がって地上へ出てみると──
テレサ
テレサ
あれは……!!
青空の下、満開の桜に彩られた城門がテレサの目に飛び込んできた。
テレサ
テレサ
なんて素敵なのかしら……
先程までの不安な気持ちはどこへやら、テレサの顔には満面の笑みが広がっている。
大通りを渡って近付いてみると、そこは広場になっていた。
城は堀に囲まれ、春の日差しを反射した水面がきらめいている。
その堀から緩やかな土手を上った所に、人々が散策できるような緑道があり、道沿いに等間隔に並んで植えられた桜は、枝を思い思いに広げてピンク色のトンネルを作っていた。
昔から大好きだった日本の時代劇『れいん坊将軍』にも、桜は度々出て来た。
しかし実際目にすると、映像で見ていた時よりも、何百倍も美しい。
この感動を写真にも残したい、そう思って、テレサは意気揚々とカメラを取り出して、思いのままシャッターを押しながら進んで行く。
そこへ風が吹いてきて──
花吹雪がふわっと舞い上がる。
見上げると、花びらがひらひらとテレサの長い睫毛をかすめて落ちてきた。
テレサ
テレサ
うわ~、綺麗……
嬉しくて、思わず微笑んでしまう。
その瞬間、あたたかく穏やかな風のようなものを感じた。その感覚は、今までに感じたことがない、でもどこか懐かしい不思議なもので、テレサはゆっくりと振り返った。
黒髪の背の高い少年が、こちらに向かって一眼レフカメラを構えていた。

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