その後、テレサが大通りに戻って来ると、どんよりとした雲から、遂に大粒の雨粒が落ちてきた。さっきまで花見を楽しんでいた人達は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
「ゲリラ豪雨よ!」「天気予報、晴れだったのに!」
そんな声を聞きながら、テレサも慌てて無人の交番の軒下に駆け込んだが、これほど強い雨からは頭が濡れないようにするのが精一杯の広さしかない。
そこへ、同じように雨宿りが目的の、一匹の白い猫が逃げて来た。
しかしテレサを見ると警戒して、少し距離を取ったまま、軒下の端のところに立ち止まる。
気付いたテレサは、しゃがんで目線の高さを同じくすると、優しく笑いかけた。
「おいで? 風邪ひいちゃうよ?」
安心させるように手を伸ばして指先を臭わせると、猫はようやく警戒を解いて足元に近付いて来た。その身体は濡れて震えていたので、白い服が汚れるのも構わず抱き上げる。
それからハンカチで拭いて、「これで大丈夫」と微笑みかけると、猫は嬉しそうに「ニャ」と鳴いた。
見合って、「ふふっ」と笑うテレサ。その時──
バシャッ!
前の道路を通り過ぎたトラックが泥水を撥ね上げ、白いブラウスが灰色に染まる。
咄嗟に腕の中に庇った猫だけは無事で、自分を守ってくれた少女を心配そうに見上げていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。