第16話

<第一章>-14
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2018/11/16 01:21
多田光良
多田光良
ここです……
多田珈琲店の隣に立つ高級マンションのエントランス前まで来た多田が、そう告げた。
アレク
アレク
ここ……!?
と衝撃を受けて、固まるアレク。
伊集院薫
伊集院薫
う、噓じゃないよ! 書いてあるっしょ!?
アレクの負の感情を察知した伊集院の右手の人差し指は、びびりながらも、マンションの正面玄関の横にあるシルバープレートを指していた。
そこには確かに、『グランドパレス銀座』と書かれていた。
アレク
アレク
そんな……
と言って、アレクは絶句してしまう。
グランドパレスというのは、宮殿だと思いこんでいたからだ。
いくらこれがお忍びの留学だと言っても、ラルセンブルク国の姫であり、王位継承者でもあるテレサ様を、このような所に一年も住まわせていいものか……!?
手配をレイチェルに任せた自分がいけなかった……。全て自分が行うべきだった……!
頭の中で、後悔の二文字が大きく渦巻く。
そんな思考を遮るように、テレサが笑顔で明るく話しかけてきた。
テレサ
テレサ
アレク、私は気に入りましたよ。グランドパレス銀座
アレク
アレク
テレサ。でも……
テレサ
テレサ
お隣には、美味しい珈琲店もありますし。いいじゃないですか
それはテレサの本心だったが、アレクは、いつも相手を思いやるテレサの優しさから出た言葉ということもわかっていた。そんな彼女だからこそ、絶対守る、という気持ちも強くなる。
だが、その優しさに、今回、甘えていいのだろうか。
そう躊躇していると、横から伊集院が嬉しそうに笑顔で口を挟んできた。
伊集院薫
伊集院薫
そうそう!! いつでも飲みにおいでよ、多田珈琲店に! 俺も大体、いるからさ!
思わず、アレクがちろっと冷たい目で見ると、一転、さっと身構えて彼は言った。
伊集院薫
伊集院薫
だ、大体ですけどね……!
多田は、伊集院の切り替えの早さに、ふっと苦笑した。
テレサもつい笑ってしまって、楽しい気持ちに包まれてから、お辞儀をする。
テレサ
テレサ
ありがとうございます。多田さんも、伊集院さんも、今日は何から何まで、色々と助けて頂きまして本当にかたじけない
伊集院の顔にも再び笑顔が戻り、調子よく、元気に答える。
伊集院薫
伊集院薫
これからも、お隣のよしみで仲良くしようね!
多田光良
多田光良
お前はお隣じゃないだろ……
すかさず突っ込む多田が面白く、再び「ふふっ」と笑ったテレサを見て、アレクの顔にも、やっと笑みが浮かんだ。