「ははは、せやな、髪の毛ぐちゃんやけどな(笑)」
そう言ってぐちゃぐちゃの髪を手ぐしで大雑把になおすのは、兄の濵田崇裕。
一通り私の髪にお兄ちゃんの指が通ると、元より細い糸目を更に細くさせて笑いかけ
「ほれ、可愛なったで。女の子は髪の毛さらさらが1番やからなぁ〜」
と言った。
「…なんじゃそら(笑)ほんまお兄ちゃんシスコンやな」
と照れ隠しで言ってしまう。
そういう私こそ、昔からお兄ちゃん大好きなブラコンだと言うのに。
お兄ちゃんは「せやな(笑)」と笑って私を引っ張ってその場に立たせると
「ご飯できてるから。降りて食べよ、な?」
と優しくそう言った。
…私はこの時のこと、よく覚えてる。
忘れるはずない、忘れられない。
この日の会話の一言一句を。
この日の兄の表情を。
そしてこの日の大雨も。
一生忘れることはないだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!