増田「いらっしゃいあなたちゃん」
あなた「…おじゃまします…」
靴を玄関に揃えて、靴の中を確認した。
ヨレてない、汚くない。
増田「始まるまでまだ30分もあるね」
あなた「いや、もう30分ですよ?」
増田「え、あなたちゃんって意外と体感時間短いタイプ?」
あなた「そういう増田さんは体感時間長いんですか?」
増田「コンサートとかの開演30分前ってめーっちゃ長く感じるよ」
あなた「私はコンサートの前は色々考えちゃうので短く感じます」
増田「ふはっ、俺らとことん気が合わないね(笑)…あ、荷物そこにおいて、適当なとこ座ってていいよ」
マンションなのにリビングが広いし、広い割に物が少なくてすごく綺麗。想像通りの家だった。
ふかふかのソファーに遠慮がちに腰をかけ、ボーッとテレビを眺めた。次の週から始まるドラマの宣伝だらけだ。
増田「飲み物、なにが飲めるか分からないから適当に出しちゃうね」
あなた「基本なんでも飲めるので大丈夫です」
増田「ほんと?俺よく分かんなくて、これシゲがくれたやつなんだけど…」
あなた「それ私が飲んじゃってもいいんですか…?」
増田「うん、シゲ優しいから大丈夫!」
あなた「根拠がないですよ…」
ありがとうございます、とお茶を飲みつつ、ちらりと時計を確認した。もうドラマが始まるまで5分前。…ほら、短いでしょ。
増田さんが自分の飲み物を持って私のすぐ隣に座った。ふわりといい匂いがする。男性向けブランドの香水だろうか。
増田「…ん?どうした?」
あなた「ああいや、ごめんなさい、視線うるさかったですよね」
増田「うるさくないよ。もしかして香水臭う?」
あなた「逆です、すっごくいい匂いでびっくりしました」
増田「やっぱり?いい匂いだよね。俺も見つけた時思った。もしかして気が合う?」
あなた「今のところ香水だけですが」
増田「じゃあもっと気が合うこと見つけよう!」
あなた「見つけるもんじゃないですよ(笑)」
パチッとテレビの画面が切り替わった。
ドラマが始まった。
最終話はOPをカットして本編の時間を少し引き伸ばしている。前回終わったところから始まった。
テレビの中の私が泣いている。
『でも、もう遅いよ。それに私じゃ釣り合わない!』
『俺の事振っておいてそれはねぇだろ…。とにかく、俺の為に行ってこい!!いいか?俺のためだからな!』
撮影のことを思い出してドキドキする。横目で増田さんのことを見ると、心做しか顔が赤いような気がした。やっぱり思い出しているのだろうか。
エンドロールが流れ、主演の俳優さんと私が手を繋いで走り出した。主演の子の決めゼリフと同時にエンドロールも終わった。私はスマホを取り出してさっそく感想をSNSにあげようと思った。
増田「SNS?」
あなた「はい。毎週ドラマの後は呟いてるんです」
増田「そっかぁ。俺SNSやってないからあなたちゃんの投稿見たことない」
あなた「それは残念、と言った方がいいのでしょうか…?」
増田「残念でしょ?」
あなた「とっても残念です」
増田「思ってない!(笑)」
あなた「思ってます!」
言い合いは長くなりそうだから、さりげなく投稿ボタンを押して呟きを世界に送信した。
─最終回、涙が止まらないよって人〜❕😭 結末を知ってる私でもウルッときたよ😭感想、たくさん返信してね💬─
増田「いいなあ、俺もあなたちゃんの投稿に返信したい!」
あなた「そんなことしたら大問題ですよ」
増田「じゃあアイドルやめてファンになる」
あなた「それも困ります…」
そんな他愛もない話は、23時半まで続いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。