前の話
一覧へ
次の話

第6話

一瞬は一生で永遠を
23
2021/08/13 04:22

卒業式
桜の花びらが暖かい風と共にやってくる
たまに髪の毛については、すぐ離れて。その繰り返し

卒業式、やっぱり先輩はいなかった
予想はしてたけど。
送辞、せっかく読んだのになぁ…先輩に聞いてもらいたかった
でも、そこが先輩らしい

「先輩」
私は屋上のドアを開ける
「……」
フェンスに手を置き、グラウンドを見つめる先輩
やっぱりいた

私は先輩への手紙をギュッと掴むと、バレないようにそっと近づいた

1、2、3歩
音を立てないように

先輩は空を見上げると、フェンスを握る力を強めた
と思ったら、フェンスに軽々と飛び乗った
(危ない…)
驚かせたら危ないかな
私は止まって考えた

「なおちゃん?」
先輩は振り向いた
「あ…」
先輩は笑った。やっぱり寂しそうに笑った
「…先輩?」

次の瞬間、先輩は前を向くと
「後ろ向いててね」
と言った
(もしかして…いや、そんなはず……)
私はゆっくり近づいた
ローファーがコトンコトンと音を立てる

「バイバイ」

先輩は呟くと、手すりからグラウンドへ降りた


「先輩、だめ!だめです!」
「離してよ」
「やだ…!」
間一髪、私は先輩の手を掴んだ
(先輩?やだ…いなくなるなんて…なんで?なんでなの?)

「これが私のしたかった事なの。ずっと前から決めてた」
「そんな…いつからですか?」
「なおちゃんと出会うずぅっと前。私が1年生の頃から」
「嘘… ……わたしと一緒に生きましょう…!だめですか?」
「うーん…だめ」
先輩はいつものヘラヘラした様子で笑った
「なんで…なんで……っ 早く上に来てください!」
強い口調で言ってみるけど引っ張る力が弱くなる

「好きです…先輩、好きです」
心の底に閉まっておこうと思ってた気持ち
あぁ、なんで今言っちゃったんだろう
まるで本当に先輩が今から死ぬみたい

「出会ってからずっと 先輩のことしか見てません」
ダメだ とまらない

「寝てる顔も笑ってる顔も、ゆったりした話し方も、ふわふわしてる声も…全部全部好きです」
息を飲む
「私、先輩と生きたいんです…!」
私と先輩との手にたまった涙がポタポタ垂れる

「2回目の告白、ありがとう」
2回目?
「雨の日」
私の心を悟ったように先輩は続けて言う
あぁ、あの雨の日、バレてたんだ。

「…なおちゃん 好きだよ」
「えっ…?」
「私も。ずっと」

ちゅ

私の手に薄い唇が当たる
同時に 2人の手が離れる
先輩はこの上ない幸せを噛み締めるように大きく手を広げて笑った

「……やだ!!」

必死だった
「先輩!」

「置いていかないでくださいよ…」
手すりから 飛び降りた
私は先輩を強く抱きしめると、先輩は涙を流した
先輩は折れちゃいそうなくらい細くて、制服の上からは想像できないくらい華奢だった
だけど、柔らかくてあったかい

そして、初めて見た。先輩の涙

「好きです、先輩」
「…うん。私も」

2人は唇を重ねた
想像してたよりずっと柔らかくて、甘い

「先輩、私…今とっても幸せです!」
「うん。私も」
先輩は私を抱きしめる力を強くした

先輩と心がひとつになった
だけど、もう唇を重ねることはできない

一瞬だけど、一生のような。
そんな人生は今日で終わり
大好きな人と2人、命を絶つ

これが本当に良い方法かどうかなんて分からないけど、私たち子供が考えた 私たちらしい答えだと思う

「先輩」
「なおちゃん」

あぁ、愛おしいなぁ
大好きだなぁ…
笑顔も、泣き顔すらもかわいいと思えてしまう

お父さんとお母さんに怒られちゃうかな
先生も友達も悲しませちゃうかな
そんな思いは胸の奥にそっとしまって、今は今を楽しもう



「永遠の愛を誓いますか?」

「はい もちろん!」

私たちは
桜の季節に 陽の光に包まれて
永遠の愛を誓いました

プリ小説オーディオドラマ