第20話

日曜日のお誘い
3,105
2021/08/20 04:00
河内くんと改札を通って、チラッと後ろを見ると、藤間くんが改札前で立ち尽くしていた。
葉山 日菜
葉山 日菜
(何を言おうとしてたんだろう)
河内 恭介
河内 恭介
気になる?
葉山 日菜
葉山 日菜
え?
河内 恭介
河内 恭介
藤間のこと
葉山 日菜
葉山 日菜
う、うん、ちょっと……
葉山 日菜
葉山 日菜
(なんでだろう。河内くんは笑顔なのに、怒っているみたいに見える……)
河内 恭介
河内 恭介
なんで?
葉山 日菜
葉山 日菜
なん……で?
体を支えられるように、背中に手を回されて、顔が近づく。
葉山 日菜
葉山 日菜
(え? あれ? すごく近い)
河内 恭介
河内 恭介
日菜、なんで藤間と一緒にいたの?
河内 恭介
河内 恭介
あんなに、怖がってたのに
葉山 日菜
葉山 日菜
あの……
相変わらず笑顔なのに、やっぱり怒っているように感じる。
それが怖いのに、顔が近くて胸の音がうるさい。
答えあぐねていると、河内くんはパッと手を離した。
河内 恭介
河内 恭介
ごめん。冗談
河内 恭介
河内 恭介
余裕なくて、かっこ悪いな。行こう
葉山 日菜
葉山 日菜
(余裕? って、なんだろう……)
葉山 日菜
葉山 日菜
……河内くんは、いつもかっこいいよ
河内くんの表情が固まる。
河内 恭介
河内 恭介
それって、どういう意味で?
葉山 日菜
葉山 日菜
どういう……?
河内くんのことは、元々整った顔でかっこいいとは思っていたけど、
最近はそういうのじゃなく、やたらとかっこよく見える。
多分、恋のせい。
葉山 日菜
葉山 日菜
(でも、こんなこと、さすがに言えない)
葉山 日菜
葉山 日菜
ひ、秘密……
河内 恭介
河内 恭介
えー? ズルいな、日菜
葉山 日菜
葉山 日菜
その笑顔で名前を呼ぶほうが、ズルいと思う……
河内 恭介
河内 恭介
ん? なに? 聞こえなかった
葉山 日菜
葉山 日菜
なんでもない
葉山 日菜
葉山 日菜
(さすがに、こんなに恥ずかしいこと、二回も言えない)
河内 恭介
河内 恭介
そうだ、日菜、昨日の続きって、けてたりする?
葉山 日菜
葉山 日菜
あ、ノート? うん、あのね……
そこまで言いかけて、ピタッと止まる。
河内 恭介
河内 恭介
日菜?
葉山 日菜
葉山 日菜
あ、う、ううん。ごめん。まだなの……
河内 恭介
河内 恭介
そっか。続きも、楽しみだな
葉山 日菜
葉山 日菜
うん、ありがとう。頑張るね……
とっさについた嘘は、バレなかっただろうか。
あのノートを見られたら、私の気持ちがバレてしまう。
葉山 日菜
葉山 日菜
(それに……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(漫画が完成したら、こうやってふたりきりで話すことも、なくなっちゃうのかな)
ホームに向かうために、階段を上がる。

今日も河内くんは、私の遅い足取りに合わせてくれる。
河内 恭介
河内 恭介
あのさ
葉山 日菜
葉山 日菜
なに?
河内 恭介
河内 恭介
あさってって、なんか用事ある?
葉山 日菜
葉山 日菜
あさって? 日曜日だよね。うん、沙耶ちゃんと買い物に行くけど
河内 恭介
河内 恭介
あー、そうなんだ……
葉山 日菜
葉山 日菜
あさって、何かあるの?
河内 恭介
河内 恭介
いや、気にしないで
葉山 日菜
葉山 日菜
日曜日になり、朝から沙耶ちゃんと出かけるために、お気に入りのウエストマークワンピースに着替えた。
葉山 日菜
葉山 日菜
(河内くんのあれは、何だったんだろう……)
葉山 日菜
葉山 日菜
(デートのお誘いだったとか? ……まさかね。自意識過剰じいしきかじょうすぎる)
葉山 日菜
葉山 日菜
ねえ、沙耶ちゃん
沙耶
沙耶
なーにぃ?
お昼に入ったお店で、冷たいドリンクのストローに口をつけながら、沙耶ちゃんに問いかける。
沙耶ちゃんは、運ばれてきた可愛いプレートを前に、スマホで写真を撮っている。
葉山 日菜
葉山 日菜
あさって何か用事ある? って、どういう意味かな
沙耶
沙耶
どうって、普通、出かける誘いとかじゃないの?
葉山 日菜
葉山 日菜
ガチャンとグラスがテーブルにぶつかって、大きな音を立てた。
沙耶
沙耶
あぶなっ。大丈夫?
葉山 日菜
葉山 日菜
……うん
葉山 日菜
葉山 日菜
(…………え?)
その時の味は、よく分からなかった。

プリ小説オーディオドラマ